「アナキスト」という語の意味

Evans, E. P. The Criminal Prosecution and Capital Punishment of Animals. Lawbook Exchange, 1998.

もともとは1906年に刊行された書物で、中世から近世にかけて、動物が司法で裁かれて死刑となった事件を丁寧に集めて論じた本である。中世の世俗の裁判と教会の裁判が、動物に関して罪を証明してどのようにして被告としての動物を裁いたのかという議論をしている。その部分も丁寧に読むととても楽しいと思うけど、あまり丁寧に読んでいない。ただ、書物の終わりにかけて、面白い仕方でanarchist という語が使われている部分があったので、そこをメモ。

アナーキストは普通に訳すと無政府主義者である。1930年代の日本の精神病院で、ある看護人がある精神疾患者を呼ぶのに「アナキスト」と記入した箇所がある。この部分の解釈が結構難しい。1930年代の日本では「無政府主義者」だけでなく「アナキスト」という言葉も広まっていたから、看護人が患者の政治的な傾向を記述に残した可能性はもちろん存在する。そうだろうかと私も推測していた。

ただ、エヴァンスの記述によると、精神が異常である人物が病的な欲求に基づいて、意図的に犯罪となることをする場合がある。この人間を anarchist と呼んでいる。そうすると、政党や政治運動の運動員でなくてもよく、意図的に犯罪性を欲求しているという意味になる。無政府主義者というより変態という意味になる。英語でいうと「小文字の a 」 lower case a を使うかどうかである。この変態性が政治的な意味合いを持っていたのでアナキストと記したのかもしれない。

なぜこんなことを書いているかというと、1920年代から30年代は、やはり警察が監禁する力を鮮明に持っていると同時に、精神医療もそれに同調している部分も確かに存在したからである。無政府主義者というのであれば 警察に大きく比重があり、変態であれば精神医療の社会性に大きく比重があることになる。