反健康

送られてきた新刊の案内のイントロがウェブ上にアップされていたので、喜んでそれを読む。文献は、Metzl, Jonathan M. and Anna Kirkland, eds., Against Health: How Health Became the New Morality (New York: NYU Press, 2010).著者は、精神分裂病の診断と人種主義の関係を論じた書物であるProtest Psychosis を出版した、気鋭の精神科医にして医療人類学者。 Protest Psychosis はこちらをご覧ください。http://amzn.to/h1TFXq 

「健康に反対する」と言ったときに、「健康」という言葉で表わされるものの背後にあるイデオロギーと構造と意識されていない前提をあばくという課題がある。編者によれば、イリッチやフーコーといった人文社会科学の古典が扱ってきた問題であり、「やさしい問題」である。より難しい、この書物が取り組もうとしているのは、「現在社会における<健康>にイデオロギーと価値判断と差別と構造的暴力が込められているのはわかったけれども、それについて、何をすればいいか」ということについての議論である。この課題は、イデオロギー性の暴露よりもはるかに難しく、個別の事例を手さぐりしながら議論を進めていかなければならないという。これは実際に本を読まないと分からないが、この書き方は、何か大事なアイデアを得た学者の書き方ではない(笑)

アメリカには、医者であると同時に、人類学・歴史・社会学などの人文社会科学の大学院水準のトレーニングを受けて、博士号まで取っている医者がたくさんいる。この編者のメッツル もその一人で、彼の議論は、社会学の尖鋭さから学ぶと同時に、「それで、医療をどうするのか」という方向に進めようとしている。繰り返し言うが、この部分のリテラシーは、日本の医者・医学界が構造的に全く持たない特徴であった。最近は、生命倫理が状況を少し改善しているのかな。