New York Times にハーヴァードの遺伝学の教授が、人種概念をどのように遺伝学から理解するのかという古い問題に貢献している記事。人種というのは社会的な現象であるということを認めたうえで、しかし、さまざまな<人種>間の違いが、単なる社会的な現象ではなく遺伝子も考慮に入れた正解が存在するだろうという議論のようである。今年度は歴史学が疾病の歴史になるので、特定の疾病にかかりやすい<人種>と呼ばれる集団などについて話すことが何回かある。それに対応するため、新しい本を買っておこう。1,600円くらいで Kindle で読むことができる。
自然科学や医学の論争的な主題について私が原則にしていることを書いておく。比較的複雑な構造を明晰に理解し、そして的確に説明できるというのが原則である。遺伝の役割もそうだし、精神医療についてもそうだし、精神病院でもそうだが、理系と文系の単純な二元論で議論をすることはかなり古い。科学・技術・医学がある仕組みを単純に善だと言い立てたり、人文社会系がこれも単純にそれは悪だと言い立てるという構図は、数十年前に終わっている。そこにあるのは議論というより無意味な論争である。冷戦や批判的な科学論の頃の仕掛けである。現代社会が持つのは、そんなに単純な問題ではない。複数の要因がからんで、プラスとマイナスが作られる構図ができる。それを明晰に理解できて、これから良くなるように的確に説明できるようにすること。現代社会の理系も文系もこれが必要だというのが、私が自らに課し、お弟子さんたちに期待している原則である。とりあえず書いておいた。