ヘルスケアへのアクセス

必要があって、医学史の教科書の中の、1880年から1930年のヘルスケアへのアクセスを開設した章を読む。文献は、Deborah Brunton, “Access to health care, 1880-1930”, in Deborah Brunton ed., Medicine Transformed: Health, Disease and Society in Europe 1800-1930 (Manchester: Manchester University Press, 2004), 364-394. これは、イギリスの Open University の医学史の教科書の一冊で、類書の中ではもっとも大部で充実したもの。資料集を入れると全部で4冊の構成になっていて、医学史の基本的な授業をするときには、これを出発点にしている。

まず、死因の構造と受療の構造の違いを統計を使って読ませ、死因で上位を占めている疾病や、結核や梅毒といった特別な対策が取られた疾病は、日常の診療の中では、それほど重要ではなかったことを示す。そのうえで、一般的な健康・衛生の技術を論じる。この多くは商品であり、富裕層と貧困層では非常に大きな隔たりがあった。次は医者にかかる側面を説明する節で、富裕層は私費で医者にかかったけれども、労働者階級の男性は、友愛協会などを通じて、拠出金の積み立てで医者にかかる仕組みを作っていた。20世紀の初頭には、成人男性の半分が疾病保険に入っており、これに雇用者と国家からの拠出金を足して、1911年の国民健康保険が引き継ぐ形になった。しかし、ここでも保険医療と、私費の診療の間では大きな違いがあった。病院の外来もこの時期に規模が大きく拡大した。病院は、健康商品やGPとは反対に、貧困層だけが入り、富裕層は入らない場所であったが、この時期に、富裕層が特別料金を払って入るようになる。 このあたりの基本的なことが、優れた資料を選んで、とてもわかりやすく書いてあって、学生に教えるのに非常に優れている。 

実は、同じ書物に、この著者が「実験室医学」について書いている章がある。書物の編者でもあるから、きっと引き受け手がいなくて書いたのだろうと想像している。「実験室医学」の章は、正直にいうと、非常に失望した章で、教えなければならないことの半分も書いていないし、クロード・ベルナールの苗字と名前を取り違えて表記しているのは、あまりにも悲しい。だから、この章を読み始める時は、少し警戒していたのだけれども、ヘルスケアの章は素晴らしくて、安心した。