必要があって、16世紀の悪魔祓いのマニュアルを読む。文献は、Menghi, Girolamo, Devil’s Scourge: Exorcism during the Italian Renaissance, translation, introduction and commentary by Gaetano Paxia (Boston: Weiserbooks, 2002). この場合の「必要」というのは、私の実生活で悪魔祓いをする必要ができたということではありませんので、ご心配なく。
ジロラモ・メンギが1576年に出版した『悪魔たちに与える鞭』Flagellum daemonumは、悪魔祓いの方法を定式化して、のちの悪魔祓いに広く用いられ、大きな影響力を持った。憑き物だとか憑依性精神病だとか憑き物おとしだとか精神医療について考える学者は、この本を、一度読んでおく必要があるだろうなと思って読んでみた。合計で七つのフォーミュラがあって、それぞれ、神への祈り―悪魔祓い―悪魔の呼び出しというフォーマットになり、犠牲者の名前や悪魔の名前などのところに、適当な名称を当てはめればいい、「マニュアル」のスタイルになっている。十字を切るというのは強力な戦いの道具だけれども、悪魔祓いのどこで、どこに向かって十字を切るか(患者の額で十字を切るというのは映画でもよく出てくる)という指示も事細かくされている。半分冗談で、半分本気ですが、この懇切丁寧なマニュアルがあると、たしかに、近世イタリアの聖職者は、自分で悪魔祓いをやってみたくなるだろう。マニュアルが悪魔憑きの流行を生んだという側面もあるのかな。
七つの悪魔祓いは、それぞれ微妙に違うが、第六の悪魔祓いに、地水火風の四大元素に呼びかけて、それぞれから悪魔を祓うという趣向のものがあった。まずは空に呼びかけ、そこから悪魔を追放するように、次には地に呼びかけ、そして水、最後に火という順番である。まず、それぞれの元素に、各々が神に従ってきたことを思い起こさせる。たとえばモーゼの杖で海が二つに分かれたとか、聖水として水が使われるとか、そのようなことである。そして、それぞれの空・地・水・火に、その中に悪魔をかくまわないように、悪魔を吐き出すように命じる部分が、自然哲学と宇宙論の壮大な構図の中での、悪魔憑きの治療という図式によくあっていた。
このマニュアルがあると、悪魔祓いをしてみたくなるという感想を共有してもらいたいので、一ページを載せておきます。