「君が代」でなければ国歌はなんだろう?

今日は無駄話を書く。

文部科学省は認めたがらないかもしれないが、「君が代」は人気がない国歌であるというのはまぎれもない事実である。「君が代」を愛唱している日本人はいたとしてもごく少ない。オリンピックの表彰式などのスポーツの国際大会のときですら、日の丸を背負っているはずの日本選手が「君が代」を心を込めて歌っているのを見た記憶はあまりない。私が知る限りでは、もっとも熱心に「君が代」を歌う日本人は、サッカーの元日本代表のサントス・アレッサンドロだけれども、サントスの例をもって、「君が代」を熱唱している日本人がいるではないかという議論は、あまり説得力がない。彼の場合は、「君が代」の歌詞とメロディーにあわせて実はブラジルの国歌を歌っている錯覚に陥っているのではないだろうか?言葉を換えるとある種の「認知論的な音痴」とでも言うべきものではないかという疑いをぬぐえない。ついでにいうと、彼は「認知論的な色盲」でもあって、日本代表の青いユニフォームが、セレッソンの黄色と緑のカナリア色に見えている可能性もある。

君が代」が人気がない理由は、もちろんイデオロギー的なこともあるけれども、いくら文部省や教育委員会が左翼的な教師を処罰しても、君が代を熱唱する日本人が増えるようには思えない。君が代の不人気の最大の原因は、それが歌として魅力がないことだと思う。まずメロディーが盛り上がらない。ここで音階があがっていけば盛り上がるのにな、というところで、逆に音階が下がるという「拍子抜け」が何回かある印象がある。さらに問題なのは歌詞である。日本の皇室が「千代に八千代に」続くことは、どちらかというとおめでたいことで、それをなんとなく望んでいる国民の数はたぶん多い。しかし、それを熱烈な情熱を持って歌い上げようとするほど、日本という国を皇室と同一視している国民の数は、いたとしてもごく少ない。そして、これが決定的なことだと思うけれども、「さざれ石がいわおになる」というのは、あまりにも初歩的な間違いである。文部省検定の小学校の理科の教科書でも、「川辺の石のようすを観察しましょう」というセクションがあったら、そこに、大きな石が小石になっていきますと書いてあると思う。これはもちろん比喩で、比喩が科学的に正確である必要はないのはもちろんだけれども、科学的に不正確であっても心に響く比喩もあれば、科学的な不正確さばかりが目に付いて「初歩的な間違い」という印象を非常に強く持たせる比喩もあることも事実である。

しかし、「君が代」はいい歌でないという文句ばかり並べているのは非生産的だから、「君が代」でなければ国歌はなんだろうか?思いつくままに五つくらい並べてみるが、それぞれ長所と欠点がある。

1「翼をください」 
長所-あれはフランスのワールドカップの予選だっただろうか。サッカーの日本代表のサポーターの間から自然発生的に生まれた祈りの歌である。自然発生というのが、「ラ・マルセイエーズ」のようでいい。
短所-国歌という感じがしない。というか、どこにも日本国に関することが歌われていない。

2「五木の子守唄」
長所-日本の民謡で伝統的な旋律。ちりがみ交換などで広く国民に親しまれている。
短所-歌い手は貧困にあえぐ地域から口減らしのために来た子守女という設定であるから、「おどみゃ勧進~ あんひとたちゃよか衆」という歌詞になっているが、この状況は、現在の日本の経済的な現実から、あまりにかけ離れている。 というか、これはむしろ、日本に出稼ぎにきた東南アジアなどの近隣諸国の女性が切々と歌う悲しい唄という印象を与える。 

3「ドイツ国歌」
http://ingeb.org/Lieder/deutschl.html
長所-ハイドン作曲の名曲で、国歌の中で私が一番好きなものである。品格、情緒、どれをとっても申し分ない。もともと弦楽四重奏の変奏曲の部分のために書かれたものだということもあって、テンポなどによって、荘厳な感じ、勇壮な感じ、軽快な感じ、ナチな感じ(笑)と、必要に応じて色々な雰囲気に自由に合わせることができる。(これができないことが「君が代」の大きな欠点である。)
短所-当たり前のことだが、他の国の国歌である。

4「六甲おろし
長所-社歌・校歌など、ある集団を象徴する歌の中で、現在の日本人に最も愛唱されている歌。一人が一回歌うことを1シンギングとして大まかに計算すると、一年間に野球場だけでのべ1000万シンギング、道頓堀での合唱やカラオケなどを入れると、一億シンギングくらいになるのではないだろうか。これほど愛唱されている歌は今の日本にない。(ちなみに、大学の校歌で一番愛されていて有名なのは、たぶん「都の西北」で始まる早稲田大学の校歌だけれども、あれは、多くて一年間に100万シンギングくらいしかないだろう。計算の根拠は、学生10万が一年に5回、卒業生で合計50万シンギングぐらい?という、きわめていい加減なものだけど。) 話を「六甲おろし」に戻すと(笑)、歌詞もいい。「六甲おろしに颯爽と」で、山の頂からふもとに向かう、上から下へという動きではじまり、「蒼天駆ける日輪の」で、今度は横方向の大きな動きが作られる。天空に十字を切るようにして作られた広大な空間に、うるわしい「青春の覇気」が満ちあふれる・・・なんという壮大でダイナミックな情景だろう。
短所-これもあたり前のことだが、特定の野球の球団の応援歌を日本の国歌にすることに違和感を持つ人が多いだろう。「ラ・マルセイエーズ」だってそうじゃないかという意見があるかもしれないが、あれは、他の土地の市民と力を合わせて祖国を防衛しようとしたマルセイユ人たちの歌である。

5「海ゆかば
http://gunka.nanode.ojaru.jp/
長所-かつて帝国軍人たちに熱烈に愛唱されたという実績がある。戦艦大和が沈む時に艦と運命を共にする兵士たちだとか、特攻隊の送別の宴のときだとか、そういう状況では「海ゆかば」の大合唱が沸き起こったという。(そこで「君が代」が歌われなかったのは、その愛唱性の低さを示唆すると思う。似たような状況ではドイツの兵士はドイツ国歌を歌った。)メロディーもいいし、歌詞だって、えっと、大伴家持だったかな、旅人だったかな、とにかく万葉集だから、君が代よりも由緒正しい。
短所-「君が代」が抱えているイデオロギー的な問題を解決しない。というか、むしろ激化させる。