ワンポイントの情報を確かめたくて、パノフスキーの書物を読む。実際に読んだのは3ページくらいだけど(笑) 文献は、エルヴィン・パノフスキー『ティツィアーノの諸問題-純粋絵画とイコノロジーへの眺望』織田春樹訳(東京:言叢社、2005)
ヴェサリウスの『人体構造論』には豪華な解剖図譜が添えられていることで有名である。この解剖図譜は、ティツィアーノのスタジオで仕事をしていた画家で、ヴェサリウスと同じヤン・ステヴァンス・フォン・カルカールが1540年付近に製作したものである。『人体構造論』の出版は1543年で、序文の日付は1541年である。そして、ティツィアーノが「デル・ヴァスト侯爵の演説」を製作していたのが1539-41年。この絵のモデルであるデル・ヴァスト侯爵は、16世紀屈指の教養人である。1532年に、侯爵は、神聖ローマ帝国の軍の総司令官として、ハンガリーでトルコ軍と退治していた。その時にイタリア人の兵士たちは動揺し、反乱の兆しを見せた。そのとき、侯爵は演説によって兵士を鼓舞し、義務に忠実であれと説き、帝国軍を救ったという。その誉れを記念するために描かせた肖像画では、古代ローマ帝国の儀礼的なポーズに従い、杖を持ち軍を相手に演説をしている全身像が描かれている。この全身像は、確かにヴェサリウスの図譜の一枚と非常によく似たポーズを取っている。