『解剖の時間』

必要があって、解剖図譜の美術評論を読む。文献は、養老孟司・布施英利『解剖の時間-瞬間と永遠の描画史』(東京:哲学書房、1987)

私は不勉強で読むのは初めてだが、おそらく解剖図譜を興味深く読み解くという知的な文化を定着させた書物の一つなのだろう。解剖図譜を中心に、さまざまな骨格の画像的な表象をたくさん集めて、それにゆるい説明や解釈をつけたもの。とにかく図版の数に圧倒される。印刷の質が非常に悪いものが多いのだけれども、とにかくたくさんあって面白い。半分くらいは日本のマテリアルで、私が初めて見るものも多かった。

説明や解釈は、あたっているとかあたっていないとか、深いとか浅いとか、それ以前の問題で、正直言って首をかしげるものが多かった。一例を挙げると、ヴェサリウスが『ファブリカ』において、骨を部分にわけてその部分から全体の骸骨を構成するという手法を取ったのは、西洋でアルファベットを用いているからだという説明は、いったい誰をどうやって説得することを念頭において主張しているのか、想像するのが難しい。