未読山から、医学における素質・体質概念の歴史を眺めた論文を読む。文献は、Ackerknecht, Erwin H., “Diathesis: the Word and the Concep in Medical History”, Bulletin of the History of Medicine, 56(1982), 317-325.著名な碩学の論文だけれども、史実を並べているというか、あまり深みがない議論だった。
Diathesis というギリシア語は、ヒポクラテスの昔から使われているが、言葉としては、ガレノスの四体液の調和による気質を意味する krasis の語がよく使われていた。しかし、1800年近辺に、パリを中心に、突然、diathesis の語がつかわれるようになり、結核やがんや痛風や梅毒などの病気について、それぞれの病気にかかりやすい素因を個人が持っており、この素因はしばしば遺伝し、素因を持っていると再発もしやすいと考えられた。天然痘や麻疹といった誰もがかかる病気は、だれもがその病気にかかる diathesis を持っていると考えられていた。これは、基本的に、何かを説明しているという幻覚を与えてくれる概念であった。
この「素質」という概念は、結核を代表とする感染症をめぐる議論、あるいは臨床の診断において、非常に深く重要な影響を与えたものである。結核菌に感染するという現象と、遺伝によって素質(あるいは素因)を受け継ぐという想定された現象は、結核をめぐる議論の基調のひとつになっていた。まあ、その前の素質概念を概観した論文であると考えよう。