精神病院などの身体拘束の激増について

医学書院/週刊医学界新聞(第3274号 2018年05月28日)

 

週刊医学界新聞が精神科の看護師たちにインタビューして患者の身体拘束の記事を掲載。身体拘束自体はこの10年間で2倍に増えるというよくわからない現象。精神病床はゆるやかに減少しているのに、身体拘束は激増している。

その理由としては、高齢者や認知症患者の増加が原因とのこと。ある看護師によると「迷惑行為」が増えているからとのこと。「迷惑行為」という概念は私の史料の分析に大きな助けになった。患者が看護やほかの患者に迷惑をかけようという側面が確かにある。

ジェレミー・グリーン先生と4つシンポジウム(慶應三田 6月10日―23日)

慶應文学部の北中先生が組織し、社会学研究科の博士課程の院生で学術振興会DCの三原さやかさんが助ける形で、アメリカの医学史の名門、ジョンス・ホプキンズ大学の先生のジェレミー・グリーン先生を軸にした多様な医療人文学の分野にわたるシンポジウムが合計4つも提供されております。ぜひご参加を!

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ジェレミー・グリーン先生をお迎えする6月10日―23日の間に、4つシンポジウムを行います。事前登録は必要ありませんので、奮ってご参加いただければ大変幸いです。

尚、医学教育に関する勉強会は以下(3)になります。場所が変更になりましたので、ご注意ください。

当日はどうぞよろしくお願い申し上げます。

北中淳子


1) 医療と人文社会科学の架橋に向けてV: The Edges of the Clinic
6月10日(日)10::00-17:00

医療が高度化し、自然科学と人文社会科学それぞれの専門性が細分化した現在、異なる領域の専門家同士が互いに深く理解しあうことは容易ではありません。この分断を乗り越える目的で、今回は内科医・医学史家として領域を超え世界的に活躍され、病と薬の歴史研究を先導されてきたジェレミー・グリーン先生と、インドの糖尿病研究でNew Millennium Book Award(アメリカ医療人類学会)を受賞されたハリス・ソロモン先生をお迎えし、「The Edges of the Clinic」について議論します。日本の現役の医師と社会科学者とともに小児医療、老年医療、精神医療、災害医療、救急医療、遠隔医療等、臨床現場の異なる局面に焦点を当てることで、医療と人文社会科学をつなぐアプローチの探究を試みたいと思います。医療従事者、医学領域や人文社会科学領域の研究者・教育者・学生さんのほか、この領域の架橋に興味のある方々のご参加を広く歓迎いたします。事前登録不要・参加費無料ですので、奮ってご参加ください。

The 5th Keio Symposium on Bridging Humanities, Social Sciences and Medicine: The Edges of the Clinic 

Date: June 10, 2018 (Sunday) 10:00-17:00
Place: Global Research Lab, East Research Building 6th floor, Keio University (Mita campus): https://www.keio.ac.jp/en/maps/mita.html (Building #3)
No Fee/Pre-registration Required

Introduction: 10:00 Junko Kitanaka (Dept. of Human Sciences, Faculty of Letters, Keio University) &Sayaka Mihara (Keio University Graduate School of Human Relations)

Part I: Histories and Epistemologies
10:10-10:35 Sayaka Mihara (Keio University Graduate School of Human Relations)
Medicine Use and Somatic Localizations of Childhood Illnesses in 1930s Tokyo

10:35-11:00 Kanako Sejima (Dept. of Psychiatry, Kyoto University)
Exploring Psychotherapeutic Approaches for Dementia

11:10-11:35 Suguru Hasuzawa (Dept. of Neuropsychiatry, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University)
Philippe Pinel's Conception of Statistics

11:35-12:00 Nao Hasuzawa (Div. of Endocrinology and Metabolism, Kurume University School of Medicine)
Piaget and Kuhn, Toward an Epigenetic Epistemology

12:00-13:30 lunch 

Part II. The Edges of the Clinic

13:30-13:55 Yuna Umeda (Dept. of Psychiatry, Tokyo Metropolitan Matsuzawa Hospital)
Doctors’ (Dis)embodiment of Biomedicine 

13:55-14:20 Hiroko Kumaki (Dept. of Anthropology, The University of Chicago) 
Capturing the Nuclear Fallout: Disaster Mental Healthcare in Fukushima, Japan 

14:30-15:20 Harris Solomon (Dept. of Anthropology, Duke University) 
Near Death: Traffic and Trauma in Urban India

15:20-16:10 Jeremy Greene (History of Medicine, School of Medicine, Johns Hopkins University)
The Television Clinic: Revisiting Old Experiments with New Media in Medicine

General Discussion
16:10-17:00 Naoki Kasuga (Dept. of Anthropology, Hitotsubashi University) and Tadashi Yanai (Dept. of Anthropology, Tokyo University)

This symposium is organized by the Global Research Center of Logic and Sensibility at Keio University and is funded by JSPS Kakenhi 16KT0123 and Mita Philosophical Society. 

企画・運営・司会:北中淳子・三原さやか 

2) 医療と人文社会科学の架橋に向けてVI: Technologies of Self-Care, Screening, and Surveillance 6月16日(土)13:00-17:00

社会の「医療化」が進み、さまざまな臨床技法が自己を振り返り、ケアし、監視するテクノロジーとして用いられている現在、私たちの自己観はどのように変容しているのでしょうか?内科医・医学史家として病と薬の歴史研究を先導されてきたジェレミーグリーン先生をお迎えし、日本の研究者と「自己のケア」をめぐる様々なポリティックスについて論じていただきます。医学領域や人文社会科学領域の研究者・教育者・学生さんのほか、臨床と人文社会科学の架橋に興味のある方々のご参加を広く歓迎いたします。事前登録不要・参加費無料ですので、奮ってご参加ください。

The 7th Keio Symposium on Bridging Humanities, Social Sciences and Medicine: Technologies of Self-Care, Screening, and Surveillance

Date: June 16, 2018 (Saturday) 13:00-17:00
Place: Global Research Lab, East Research Building 6th floor, Keio University (Mita campus): https://www.keio.ac.jp/en/maps/mita.html (Building #3)
No Fee/Pre-registration Required

Introduction: 13:00 Junko Kitanaka (Dept. of Human Sciences, Faculty of Letters, Keio University) & Sayaka Mihara (Keio University Graduate School of Human Relations)

Part I: Anthropology of Medicine
13:10-13:40
Shuko Higashijima (Graduate School of Human Relations, Keio University)
Practicing “Secular Zen”:The Meanings of Sitting and Participation in  Zazenkai  

13:40-14:10
Katsuya Kushihara (Dept. of Information Management, Tokyo Online University)
Treating Mild Anxiety: Patients' Ambivalence of Dependence and Autonomy

14:20-14:50
Miho Ushiyama (Dept. of Human Relations, Faculty of Human Relations, Otsuma Women's University)
The Countermovement to 'Pharmaceuticalization': Steroid Withdrawal Treatment of Atopic Dermatitis in Tokyo

Part II: History of Medicine

14:50-15:20
Eri Nakamura (Graduate School of Human Relations, Keio University)
Broken Soldiers in the "Emperor's Army": War Neurosis and Military Psychiatry during the Asia-Pacific War

15:30-16:30
Jeremy Greene (History of Medicine, School of Medicine, Johns Hopkins University)
The Computer in the Clinic: Past Futures of Digital Health Screening

16:30-17:00 
Comments & General Discussion: Junko Kitanaka (Dept. of Human Sciences, Faculty of Letters, Keio University) & Sayaka Mihara (Keio University Graduate School of Human Relation)

This symposium is organized by the Global Research Center of Logic and Sensibility at Keio University and is funded by JSPS Kakenhi 16KT0123. 

企画・運営・司会:北中淳子・三原さやか 

3) 医療と人文社会科学の架橋に向けてVII: 医学部における医療人類学
ジェレミー・グリーン先生をお迎えして

日時:6月18日(月)18:45-20:00
場所:慶應義塾大学(三田キャンパス)研究室棟地下1階第3会議室
https://www.keio.ac.jp/en/maps/mita.html (Building #10)

6月10日ー23日まで、Johns Hopkins の医学史学部長であり、最近Medical Humanities のセンターを設立されたジェレミー・グリーン先生を、慶應にお呼びできることになりました。ご存知のようにグリーン先生はクライマンの愛弟子であり、ハーバードの医療人類学でMAを、MDを取得されるとの同じ年に医学史のPhDをとられ、国際保健や医学教育のみならず、薬の歴史、ジェネリックの専門家として議会にも呼ばれる等、幅広い領域活躍されています。また、学際的・国際的ネットワークも多岐にわたり、後進の指導にも積極的に取り組まれている方ですので、日本・アジアでの医療人類学ネットワークをどう構築していけばいいのかについても、いろいろとヒントをいただけるのではと思っております。

今回のご講演では、医学部の中にMedical Humanities センターを作る際のお話とともに、医学・歴史・人類学・行政・とそれぞれ異なるタイプのオーディエンスに向けて発信する方法についてお話いただきます。また、New England Journal of Medicine 等を含め一流の医学誌に数多くの医学史・医療人類学的論文をも出されている先生から、医学との効果的な連携について教えていただけるのではと考えております。奮ってご参加ください。


4) 医療と人文社会科学の架橋に向けてVIIi: Yumi Kim 先生をお迎えして

Yumi Kim (History of Medicine, Johns Hopkins)
Sickness of Spirit: Family, Gender, and Madness in Japan, 1870s-1930s.

Commentator: Jeremy Greene (Johns Hopkins) 

日時:6月21日(木)10:45-12:30
場所:慶應義塾大学(三田キャンパス)大学院棟4階 343c
https://www.keio.ac.jp/en/maps/mita.html (Building #8) 

Yumi Kim 先生は、栄誉ある2018 Pressman-Burroughs Wellcome Award from the American Association for the History of Medicineを受賞された気鋭の若手医学史家です。日本が近代化する時期の病・狂気・精神病についてのご研究をお話いただき、コメンテイターのJeremy Greene 先生を中心に精神医療研究の最新の動向と、今後の方向性について皆でディスカッションしたいと思います。


企画・司会・運営:北中淳子・三原さやか

身体各部から作られるマーケット、病院での死、家庭での死

Pfeffer, Naomi. Insider Trading : How Mortuaries, Medicine and Money Have Built a Global Market in Human Cadaver Parts. Yale University Press, 2017.

昨年刊行された医学史の著作がとても面白そう。重要な臓器の移植は腎臓、心臓、肝臓、肺などがあり、これらは推進され批判する人々がいる形でよく研究されているが、そうではないあまり重要ではない身体部分の利用に関しては、これまで見落とされてきた。肌、骨、角膜などの死体のあまり重要でない各部や、ホルモンなどについては、それに関する規則がなく、死体から各部が取られ、市場に乗って世界のさまざまな人々の需要に答えるというメカニズムがあったとのことが概要である。もっと丁寧に読んで、来年の授業に取り込んでみよう。

この利用として、死体が病院で発生するという重要な条件がある。もともとは自宅が人が死ぬ場所で病院での死は少なかったのが、完全に逆転した。この本のイングランドウェールズの統計と日本を較べてみると、日本は20世紀の後半に病院化というか脱自宅化が急速に進展し、たぶんイングランドを抜いている。イングランドでは20世紀前半に、日本では20世紀後半に大きなシフトがおきている。イギリスでは1897年には病院とワークハウスが12.0%、自宅が86.7%だが、1967年には病院などが55%、自宅が41.9%になっている。Wikipedia に掲載されている近年データでは、病院などが75%、自宅が18%くらいである。日本では、1950年には病院と診療所が11.7%に自宅が82.5% だったのが、2009年には病院などが80.8%で自宅が12.4% と、完全に逆転しただけでなく、イギリスよりも病院死亡が高く、自宅で死亡の割合が低くなっている。イギリスと同様にメジャーな臓器は法律によって守られているのだろうけれども、そうではない部分というのは日本ではどうなっているのだろうか。

 

イギリス

  Lunatic Asylum Hospital Workhouse Elsewhere, mostly at Home Total Deaths Number
1897 1.3 4.4 7.6 86.7 541487
1907 2.0 6.7 10.0 81.3 524221
1957 2.9 43.8 2.9 50.4 514870
1967 3.1 51.5 3.5 41.9 542516

 

日本

第5表 死亡の場所別にみた死亡数・構成割合の年次推移      
年次 総数 病院 診療所 介護老人 助産所 老人 自宅 その他
  構成割合(%)            
1951 100 9.1 2.6 0 82.5 5.9
55 100 12.3 3.1 0.1 76.9 7.7
60 100 18.2 3.7 0.1 70.7 7.4
65 100 24.6 3.9 0.1 65 6.4
70 100 32.9 4.5 0.1 56.6 5.9
75 100 41.8 4.9 0 47.7 5.6
80 100 52.1 4.9 0 38 5
85 100 63 4.3 0 28.3 4.4
90 100 71.6 3.4 0 0 21.7 3.3
95 100 74.1 3 0.2 0 1.5 18.3 2.9
2000 100 78.2 2.8 0.5 0 1.9 13.9 2.8
5 100 79.8 2.6 0.7 0 2.1 12.2 2.5
7 100 79.4 2.6 0.8 0 2.5 12.3 2.4
8 100 78.6 2.5 1 - 2.9 12.7 2.3
9 100 78.4 2.4 1.1 0 3.2 12.4 2.4

 

https://en.wikipedia.org/wiki/End-of-life_care

第6回リサーチ・ショーケース開催のご案内

オクスフォード大学出版局から、イギリス史に関する処女作を英語で刊行した山本浩司先生からいただいたご案内。英語で歴史学を発表するリサーチ・ショーケース。とても多くのメリットを持つ集まりだと思います。ぜひご参加を!

 

第6回リサーチ・ショーケース開催のご案内


Historians’ Workshopでは、外国語で学問的コミュニケーションを行う機会を提供する
ため、リサーチ・ショーケースを開催してきました。発表・
質疑応答をすべて外国語で行うことで、発表者・参加者の双方が外国語での学問的コ
ミュニケーション実践の場をつくっています。
第6回となる今回は、講評者として太田淳さん(慶應大学)を招き、
今回は使用言語を英語に限定して開催します。
英語での発表スキルの向上をめざす全ての歴史研究者に開かれた
会にしたいと考えています。日本史・東洋史西洋史・思想史・社会経済史・国際
関係・歴史地理等の分野から、広く発表者を募ります。
※ 過去のリサーチ・ショーケースについては、以下のサイトをご覧ください
https://historiansworkshop.org/category/research-showcase/

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日   時 : 2018年7月27日(金) 17:30~20:00
会   場 : 東京大学本郷キャンパス経済学研究科学術交流棟小島ホール1階第1セミナー室
フォーマット: 一人あたり、発表8分+質疑応答7分
使用言語  : 英語
応募条件  : 学部4年生以上の歴史研究者
募集人数  : 6名
(今回発表のチャンスを得られなかった場合、次回以降優先的に発表の機会が与えられ
ます)
参 加 費  : 無料
応募方法  : 発表希望者は、2018年6月8日(金)17時までに以下のサイトにある応
募フォームに記入し、送信してください
         URL:https://goo.gl/forms/BcoKWN5eAoWJQVEM2

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【リサーチ・ショーケースで発表するメリット】
1)発表原稿への事前のフィードバック
発表者は、開催日の2週間前に発表原稿を提出することで、ワークショップメンバーか
ら事前にライティングや構成についてフィードバックを受けることができます。
このため、ライティングスキルが向上し、発表にも自信をもって臨むことができます。
当日は、講評者である太田淳さんからもフィードバックをいただけます。
2)優秀な発表にはプライズを授与
博士号未取得の発表者の中から、最もクリアで説得力のある発表をした方に
「Research Showcase Prize」が授与されます。英語の流暢さ (fluency)
ではなく、内容がどれだけスムーズかつ力強く伝わるか (clarity and persuasiveness) を基準とします。
3)遠方からの発表者にはトラベルグラントを授与
首都圏外からの参加を支援すべく、発表者の若干名には「トラベルグラント」として、
交通費・宿泊費を最大3万円まで補助します。

連絡先
赤江雄一
y.akae@flet.keio.ac.jp
小風尚樹
xiao3feng10324@yahoo.co.jp
槙野翔
show.you.macky@gmail.com
正木慶介
keisukemasaki@for.aichi-pu.ac.jp
山本浩司
kyamamoto@e.u-tokyo.ac.jp

本会HP: https://historiansworkshop.org

広島と長崎の原爆被爆者の医療的な側面について

https://forgedbyfiresite.wordpress.com/2018/05/08/learning-from-the-a-bomb-atomic-flash-burns-in-hiroshima-and-nagasaki/

イギリスのバーミンガム大学のジョナサン・ライナーツ先生が3か月ほど広島と長崎に滞在され、原爆の被爆者の被害研究をされました。その研究成果の一部を公開されております。

非常に面白い視点が示されております。広島や長崎の被害は、その後の世界にとっては冷戦の中で核兵器による大都市攻撃にどのように対応するかを教えてくれる素材になりました。原爆の爆発の中心で30万度、地表では3,000-4,000度、どのような被害がどの範囲で広がるかという知識は、冷戦下の核決戦に対応した医療対策の設計に利用されたとのこと。また、核兵器の爆発直後だけでなく、長期性を持つ被害者についても、着目しています。どのような医療を医師が行ったのかということも面白い主題ですが、それがなくなったり、あるいは無意味だったときには、ある意味での民俗療法が出てきます。調理油、ジャガイモ、キュウリ、トマトの果汁、ドクダミ、お茶などが用いられたとのこと。ドクダミを用いられた患者のことも丁寧に描かれています。

私は被爆者ではありませんが、ジャガイモ、キュウリ、トマトの果汁、ドクダミというような民俗療法について書くと、ああ、そういえば・・・というような記憶の残骸があるような気がします。漠然とした生活感の中に入っていたと言ってもいいのかもしれない。昭和12年滝野川健康調査の時も、このような療法をある意味で期待していたのですが、そこから薬に一歩近づいたOTC (Over the Counter) の薬の方がはるかに頻繁に使われている。薬ではなくてドクダミのお茶をさがして入れることが、原爆による破壊の意味があったのかもしれないです。

 

ライナーツ先生のグループの広島・長崎の研究はバーミンガム大学の医学史コースでも教えられているとのこと。ご興味がある方は、広島や長崎のアーカイブズにご連絡するか、あるいはバーミンガムのライナーツ先生にお問い合わせくださいませ。

http://seeds.office.hiroshima-u.ac.jp/profile/ja.2629d5465596c399520e17560c007669.html
http://www-sdc.med.nagasaki-u.ac.jp/dscr/staff/
https://www.birmingham.ac.uk/staff/profiles/applied-health/reinarz-jonathan.aspx

1857年のナポリの地震被害の優れた報告書が古書店に出ました!

http://www.nigelphillips.com/
http://www.nigelphillips.com/p/catalogue

医学の古書を愛好家に売る古書店というディープなものは、日本にも外国にもある。イギリスには Nigel Phillips という科学や医学の古書を専門に売る古書店があり、カタログを見ているとハイソサイエティ向けの店である。優れた文書を図版付きで売っていて、カラー図版が見とれるほど美しい。英語やラテン語はもちろん、各国語の古書が販売されている。カタログはネット上で見ることができて、発注することもできる。

現在の Catalogue 47の表紙は、1857年のナポリ地震の影響をロンドンの王立協会に報告した2巻本の報告書のイラストで飾られている。その報告書を書いたのは Robert Mallet (1810-1881) というアイルランド出身のエンジニアで、都市の建物への被害を見ることが重要である研究をしたという。seismology (地震学)という単語を作ったのも彼であるとのこと。 19世紀の末から20世紀の初頭の日本の地震学の観察ということに影響を及ぼしているのだろうか。2巻本で現在のポンド/円だと26万円くらい。これを研究して展示できる方はぜひお買い求めを。

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幸田露伴『対髑髏』 田中キャサリンの論文

田中キャサリン怪奇小説におけるハンセン病の肖像―幸田露伴『対髑髏』を中心に」『大手前大学論集』16号(2015), 89-124.  
 
幸田露伴が1890年に刊行した小説『対髑髏』についてのメモを書いた。これは、ハンセン病の患者を描いている部分があること、その部分は非常に生々しく、顔や髪の毛や手足など身体の重要な部分が破壊されている有様が描かれていること、しかもそれに精神疾患と妄想が組み合わさった作品になっていること、それと同時に夢の次元のはかなさのようなものを伝えている優れた作品であることなどをしばらく前にブログで書いた。そうしたら、ハンセン病の歴史の俊英の廣川先生から、田中キャサリン先生の論文を読むのがいいと指導を受け、すでにウェブに公開されている論文であるので、喜んでダウンロード・プリントアウトして読んだ。
 
とても良いお仕事だった。ハンセン病と文学について、日本の研究者の研究書や、イギリスの研究者が帝国主義の話の中に組み込んだ書籍など、すぐれた作品を数多く引用してくださっていて、とても役にたつ。日本文学にとってはハンセン病は社会に内在する脅威であるが、イギリス文学にとっては、植民地からもたらされる脅威であり、人種論などの影響を受けていたという議論も大切である。それから、私が読んだ古い岩波の全集とは異なっているというのは、ああ、ここがそうかもしれないなという引用があって、とても役にたった。また、この作品が英訳されているという私にとっては大ニュースがあり(笑)、この英訳の書物を確保すると、私にとっては話がすごく楽になる。
 
日本とイギリスの医学に関する議論について、ハンセン病の原因が近代医療と民間医療のいずれにとっても不明であったという議論が、1870年についてはかなり当てはまるだろうけれども、1890年という年代にあてはまるかどうかはちょっとわからない。1880年近辺にハンセン先生が病原体の発見と人体実験をして、大きな動きが表れているのだろうと私は思っているが、これは私の間違いかもしれない。
 
もう一つ、イギリスの文学系の分析だけでなく、歴史系の分析で、素晴らしい書物がある。Carole Rawcliffe, Leprosy in Medieval England (2006) である。もとはといえば中世の癩病についての大きな本であるため、近現代史の研究者があまり読まないが、素晴らしい側面を持っているから読んだほうがいい。中世ヨーロッパのハンセン病対応について、1980年代までは、ネガティヴに記述してその権力論や隔離論や差別論などを分析して展開するのが、人文社会系の中では正統の考え方であった。そのようなネガティヴな側面が正しい部分ももちろんある。ロウクリフ先生の書物は、なぜそのような考え方が表れたのかを、中世と植民地のイメージが確立する脈絡で分析する方法と、そのようなネガティヴな読みではわからない部分もあらたに読みとる見解を示す書物である。私(たち)から見ると、かつての学生時代に自分が強く納得した視点が、いかに歴史的に形成されたのかを知る、とても面白い仕掛けである。ロウクリフ先生の書物は、我々の議論を新しい段階へ移行する本であり、一世代前の R.I. Moore 先生の分析ももちろん読まなければならないけれども、その先の世界を切り開いたものだと私は考えている。
 
もちろん、田中キャサリン先生の分析も素晴らしい。ぜひ読んでいただきたい。