同じく新着雑誌から、オスマン=トルコ支配下のエジプトの医療者の状況を調べた論文を読む。文献は、Gadelrab, Sherry Sayed, “Medical Healers in Ottoman Egypt, 1517-1805”, Medical History, 54(2010), 365-386.
ナポレオンのエジプト遠征に従軍したフランス人がオスマン=トルコの時代の医学について低い評価を下したので、かつては19世紀より前のエジプトの医療の状況に対する興味が低かったが、近年、ポストコロニアリズムその他で研究の機運が高まってきた。その流れでの再評価。16-18世紀のエジプトの医療者たちは、内科、外科、産婆、床屋、薬種商などのギルドに組み込まれていたこと。それ以外に宗教的・信仰的・魔術的な方法を使うものたちもいたことなど、それ自体としては驚くことではないが、断片的な資料や二次研究から見事にまとめあげられている。日本の近世の医者たちは同業組合・ギルドにまとめられていなかったことにあらためて気づく。あと、エジプトでは女性の治療者が、魔術や信仰系はもちろん、正統の側にもたくさんいた。女性の内科もいたし、公的な病院で女子病棟を任される女性医師もいた。すごくナイーブな感想だけれども、ちょっと意外だったので、記憶するために書いておく。日本の資料を読んでも「女性治療師」は意外にたくさんいるなという印象を持っているけれども、エジプトはそれよりもあとひと押しあるように思う。