ベルリンに住む友人と会って、AktionT4 の跡地に行ったという話をしたら、それなら面白い場所があると言われて、ヒトラーの地下壕の跡地に行った。ドイツの敗色が濃厚になり、ベルリンが空爆されるようになると、ヒトラーは地下壕を覆っているコンクリートをより厚くするようにいい、最後には4メートル近いコンクリートで覆われるようにした。そこでヒトラーやエヴァ・ブラウン、ゲッペルスとその妻などが自殺して、ヨーロッパでの戦争が終わった地下壕である。
少しわかりにくい場所にあって、かつては省庁などが並んでいた Wilhelmstrasse から少し入ったところにある。観光客もほとんどいないし、簡単な案内板が立っているだけである。もともとの建物は空爆などで徹底的に破壊されて、ごく普通のアパートが立ち並ぶ通りになっているが、そのアパートの駐車場が地下壕の跡地だった。駐車場といっても青空駐車で、舗装もせず、少し砂利を敷き、雑草が生えて、あちこちにゴミが捨てられ、木の古い安っぽい柵が壊れていて、並んでいる車もみすぼらしい、うらぶれた駐車場だった。凡庸な風景というのか、凡庸以下の風景というのか、よくわからない。かつてはヨーロッパを震撼させ、そのほとんどを支配し、ユダヤ人やジプシーや障害者を抹殺した人物が指令を発し、そこで死んだ場所である。その場所が、あまりに凡庸でみすぼらしい場所になっていること。この印象は、粗い言葉でいえば「無常」という日本の中世的な概念で表現できるのかもしれないが、その言葉では、私が感じた心の動きの1/4 も表現できない。(これは、私が「無常」という言葉に対して持っているイメージが貧困なせいだと思う。)この、空虚な、殺伐とした、乾いた感じ、しかしそこで人工の安っぽい日常性が動いている感じは、なんだろうか。私を案内してくれた友人は、humbling という言葉を使っていた。私が感じた何かを部分的に的確に表現している言葉だと思う。
ネット上から少し写真を拝借しました。