内村祐之・精神病調査

内村祐之「日本人の精神疾患負因負荷に関する一規準」『精神神経学雑誌』47(1943), 271-273.

日本の精神病調査はドイツよりも10年ほど遅く始まり、始まった段階においても精神病院の患者数が絶対的に少ないという特徴を持っていた。内村の調査は確かにナチスの優生学の影響を受けていた。 しかし、ここにナチス流の強力な国家が主導する優生学の特徴を感じることは難しい。 

民族資質の優劣は、自然科学的客観性に基礎づけられねばならない。しかし自然科学的視点は甚だ多角的であって、正確なる結論は、種々なる吟味の総合に待つところが多い。精神疾患の悪質たることは言うまでもないが、これを民族的資質と称しえるや否やは、かかってその民族の有する精神病者数の多寡に依存する。たとえば精神疾患の民族的寡少は、疑いもなく諸民族の資質の優秀性を称する重要な一指標である。従来もこのような見地から、精神疾患に関する各民族間の比較を試みるものが少なくなかった。しかしその大多数は、臨床的印象に出発した単なる推定にすぎなかった。271

しかるところ、Ruedin の指導のもとに案出された平均成員の負荷統計法は、適正なる平均成員発端者を見出し得るかぎり、精神疾患の分布濃淡を推定し得べきもっとも合理的な方法である。ことに遺伝性疾患負因の民族内分布を推知すべき唯一の調査方法である。従って本方法が案出されて以来、ドイツ人はその応用によって、自民族内の這般の事情を明らかになり得るに至った。これは精神医学的遺伝学にとっても、また比較民族精神医学にとっても、近年における最も輝かしい進歩の一つであったと思う。 271

日本学術振興会の資金で、四人の研究者に五つの地域において、精神疾患全般の負荷事情を調査した。東京を二つ、那覇、小樽、秋田である。 その結果、発端者数792, 発端者を除いた同胞数を4115人について精神医療調査ができた。この結果、精神分裂病は0.75%、躁鬱病は0.21%、真正癲癇は0.32%、進行麻痺は 0.64%という数字が出た。Stroemgren は、同じ疾病について、0.70%、0.20%、0.35%、0.33%という数字を出していて、これは、進行麻痺以外は、とても似ている。 「我々の得た数字と比較して、進行麻痺を除いた他の主要遺伝精神病の比率が、いかに彼我相近接しているかを知って驚くのである。」273.