『モデラート・カンタービレ』


必要だというわけではなかったけど(笑)、マルグリット・デュラスの『モデラート・カンタービレ』を読む。河出文庫に収められている。

もともとはサイゴンで暮らすフランス人としての植民地経験を自伝的に描いた『愛人』を仕事の関係で読んで面白かったのがきっかけで、デュラスのものをいくつか買ってみた。この作品は傑作として名高いそうで、確かにぐいぐいと引き込むような迫力がある。他に読んだデュラスのいくつかの作品よりも分りやすくて、たぶん一般受けするのだろう。

フランスの港町に暮らすブルジョワジーの夫人のアンヌは、たまたま情痴殺人事件を目撃してショックを受ける。それをきっかけに、自分が今の退屈な生活から脱出したいと願っていることを自覚する。子供をピアノの練習に連れて行った後で立ち寄ったカフェで、見知らぬ男と会話を交わすようになり、その男の口から聞いた情痴殺人事件の真相に自分の人生を重ね合わせ、自分の不幸と真の欲望を意識するようになる。心の中の情念が次第に形をなし、主人公がそれに捉われていきながら、逆説的に解放されていく緩慢な過程が、迫力と説得力を持って描かれる。 

酒におぼれて自棄的になった主人公が自宅で開かれた晩餐会に遅れて現れ、さらに酔いつぶれていく場面の描写は圧巻だった。この作品を読んだあとは、パーティで冷製サーモンを見ると必ずこのシーンを思い出しますよ(笑)。

この作品はジャンヌ・モローベルモントで映画化されていて、邦題は『雨のしのび逢い』。いつものことですが・・・以下は略しますね、もう(笑)