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「コロンブスの交換」と新大陸原住民の感染症による殲滅

Cook, N. D. (1998). Born to die : disease and New World conquest, 1492-1650. Cambridge, Cambridge University Press.

 

医学史の主題を授業に取り込もうと思っている方に、いわゆる「コロンブスの交換」の授業をするときに便利な文献の紹介。

 

ヨーロッパ人がアメリカ大陸を発見したあと、ヨーロッパからアメリカに感染症が渡り、アメリカの住民が免疫を持っていなかったため、アメリカの住民に巨大な被害が出て、アメリカ大陸がヨーロッパに征服される大きな原因となった。ついでにいうと、アメリカからヨーロッパに梅毒が渡ったとされていて、これをコロンブスの新大陸発見後にヨーロッパとアメリカが疾病を交換したみなすことができるので「コロンブスの交換」という。この主題は、もともと歴史学者のウィリアム・マクニールやアルフレッド・クロスビーが議論して、医学史の研究者はもちろん、学者には有名な話題であった。非常に優れた書物で、成功した一般書であるダイアモンドの『銃・病原体・鉄』でさらに有名となって、現在では基本的にほぼすべての学生が何らかの形で知っている21世紀の常識になりつつある。16世紀のアメリカの話だから、私の専門の研究領域ではないけれども、もちろん教えている。人口学的に大きな影響を及ぼし、ヨーロッパがアメリカの支配者となった非常に重要な世界史の現象であり、先進地域は免疫的な優越性を持っているという、その前とその後に規模を変えながら何度も繰り返された現象を教えるという、非常に重要な主題である。

 

重要なメッセージなり概念装置などを説明している参考書は、むしろ多すぎるくらいであり、マクニール、クロスビー、ダイアモンドなど、好きなものを使えばよい。ただ、この三冊だと、実際に授業をするうえで、意外なことにちょっと困る。それぞれが、概念装置の展開を目標としているため、史実の部分は駆け足で記述されているというか、それぞれの概念に都合がいい史実が高度に選択された記述になっているからである。その時に、この書物があると安心である。マクニールやクロスビーを踏まえて、史実がきちんと説明され、地域・疾病ごとの年表が作られ、南北アメリカの地図に感染症の流行が記入され、当時の人々の疾病についての証言が翻訳されている。表紙のイラストは18世紀のペルーで天然痘にかかった女性のもので、これもインパクトがあってよい。この書物が一冊あると、安心して一回か二回の授業ができるので、紹介しておく。ただ、最初にも書いたが、この本はもう15年以上前のものなので、このレンジの教科書としてより使いやすいものも出ているのかもしれない。知っていたら教えてください。画像は本書表紙のイラスト。

 

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