Obeyekere, Gananath, The Apotheosis of Captain Cook: European Mythmaking in the Pacific (Princeton, New Jersy: Princeton University Press, 1992).
イミュノ・ヒストリーについて考えをまとめながら本を探しては読んでいる。8月末にイミュノ・ヒストリーについて少しまとまったものを書く必要があることと、授業で16世紀のアメリカ大陸に天然痘や麻疹などが持ち込まれて、原住民に大被害が出てヨーロッパによるアメリカの征服に大きく貢献したトピックを教えたことの関係で、この書物にさっと目を通した。
免疫学的不利性というのは、ほぼ純粋に身体的・医学的な概念装置である。二つの文明が接触した時に、それまで数多くの疾病を経験したことがある文明から来た人々は免疫を持っていることが多いが、そうでない側は免疫がないので、後者に感染症が移入されたときに大被害が出るが、前者からきた人々には被害が出ない。それを免疫学的不利性というというのが大まかな議論である。一番有名なのは、16世紀にヨーロッパと接触したアメリカ大陸の住民が天然痘や麻疹などの感染症で大被害が出る一方で、そこにやってきたヨーロッパ人は同じ病気にほとんど罹らない現象である。類似の現象が、19世紀のヨーロッパが南太平洋の島々と接触したときにも繰り返された。17世紀に日本がアイヌと接触したときにも、類似の現象が起きている。これはおそらくあまり問題がない概念であるし、先日も授業で教えて学生たちはよく分かっていた。
問題は、この現象がどのように解釈されるかである。ヨーロッパ人と原住民、あるいは日本人とアイヌの双方でもいいが、二つの文明の成員によってどう解釈されるかである。直接疾病の主題には関連しないが、その流れでオベイキアの著作にさっと目を通した。彼の議論は、より進んだ側の文明から来た人々、とくにそのリーダーが現地の宗教の神のひとりとして考えられるというマイケル・サーリンズの議論に反対して、それに代わるモデルを形成するために、18世紀にハワイなどを訪れて神の一人とみなされたイギリスのジェイムズ・クックの例を分析するものである。クックはハワイの原住民によって神の一人とみなされたというサーリンズの議論を否定して、クックは部族長の一人とみなされたのだという。その議論は私にはよく分からない。面白いのは、ヨーロッパの側が、別の文明との接触について「神話」を形成しているという議論である。原住民が持っている神話の中にヨーロッパが組み込まれて神的な位置を与えられるというよりも、神話を構成する側は実はヨーロッパのほうで、原住民はそのように理解するという神話をヨーロッパの側が持っているという。疾病はこの本では触れられていないけれども、これは非常に面白い発想である。実はサーリンズもずっと読みたかったが読んでいない。この本も、サーリンズも、きちんと読む。