エホバの証人

土曜朝はエコノミスト・エクスプレス(笑)今朝も、楽しい記事がたくさんあったけれども、いつものメインセクターではなくて別のセクターの記事が目に留まった。 Jehovah's Witness エホバの証人のメンバーが6人、ロシアで拘束されたという記事である。昨日はセヴンス・デイ・アドヴェンティズムというキリスト教の異端少数派について少し勉強したところであり、今朝はエホバの証人についての記事などを読んでみた。

セヴンス・デイ・アドヴェンティズムもエホバの証人も、19世紀の中葉から後半にアメリカで作られたキリスト教の異端少数派である。エホバの証人は1870年代にアメリカで成立し、綴りはそのまま Jehovah's Witness である。1881年から月刊誌を出しており、タイトルがThe Watchtower。「ものみの塔」は、私は読んだことがないが、エホバの証人の月刊誌である。エホバの証人の教理の中では、三位一体やイエスの位置づけなど、神に関する部分が大きく違う。一つ以上存在するという教理である。ローマ・カトリック教会によれば、神が唯一存在するという考えはキリスト教の根本であり、それを否定するかのような団体は、キリスト教の中の新しいグループとは呼べず、一つの新宗教であるとしているとのこと。

このエホバの証人の他に、セヴンス・デイ・アドヴェンティズム、クリスチャン・サイエンスモルモン教会の四つが19世紀のアメリカで誕生した少数派のなかで世界中に発展しているとのこと。宗教と身体と医学の関係はもともと非常に深い。近現代になると、クリスチャン・サイエンスの多くの事例は有名であるし(現在ではどうなっているのか知らない)、エホバの証人でも輸血の大きな問題があり、セブンス・デイは多重人格で決定的な事例となった症例の背後にいる宗教である。ただ、オウム真理教統一教会とはかなり違う宗教であるように思う。

 

デュシャンの作品「薬学」

フランス出身でのちにアメリカ合衆国に移住した画家のマルセル・デュシャンインパクトがある絵画とチェスの腕で高名である。

初めて知ったのだが、彼の1914年の作品群で、Pharmacy という作品群が存在する。基本的には大量生産されたポスターなどに少しだけ手を入れて作品になるという構造である。デュシャンがトイレの便器の写真を『泉』と命名して作品としたことと似ている。この時期の薬学が与えた大きな影響を考えることをメモ。

 

www.toutfait.com

 

 

スクラブル!

en.wikipedia.org

 

スクラブルというイギリスの遊びがある。多くの人がやったことがあると思う。英語のアルファベットごとに点数がついていて、それを並べて高い点を取ろうといゲームである。手元の7枚のピースにはAやBというアルファベットが書いてあり、そこに、たしかAは1点、Bは3点、というような点数も書いてある。それを並べて一つの単語を思いついて、そのピースを並べる。たとえば BEAR という単語だと、3+1+1+1 =6点である。それを盤のどこに置くかなどで2倍とか3倍とかいうこともあり、12点になったり18点になったりする。そのほか説明できない複雑な部分もある(笑)

20世紀の中葉である1930年代にアメリカで発明されたとのこと。イギリスではすべての世帯の半分がスクラブルというゲームを持っているとのこと。日本でいうと、昔の百人一首、碁、将棋などにあたるのだと思う。実佳と私もスクラブルを買って、文学者と医学史家の対決をしたりしていた(笑) 先日、そのセットを見つけて少しやってみた。英文学者と医学史家で一勝一敗である。その時に少し話題になった、その言葉をスクラブルが認めたかどうかを決める辞書が Kindle で出ていたので買ってみた。 argumentatively は24点、yokozunas は25点、zebrafishes は28点である。このあたりをおぼえておいても、あまり意味はないのですが(笑)

3人の女たちが捏造した多重人格という診断概念

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どの部分が正しく、どの部分は間違っているのかは私にはわかりませんが、とても面白い本です。ぜひお読みください!
 
昨日読んだシビルの多重人格の捏造問題。患者と精神分析医とジャーナリストによって1970年代に作られ、70年代と80年代に多くの人々が「信じた」多重人格。この問題が一段落したのちに、2011年に出版された書物をアマゾンで買って読み出した。これが非常に面白い。全体が20章ほどで、時間を見つけては最初の4つの章を読んでしまいました。ううむ(笑) いくつかのポイントのメモ。
 
イントロダクションの概論のあと、1,2,3章は、3人の主人公に関して、彼女たちが出会うまでにどのような経験をしたのかを、それぞれに関して復元している。1920年代から30年代のアメリカであるから地域差が非常に大きいし、3人の個人の祖先はどの地域の出身で、いつアメリカに移住したのか、両親はどのような職業なのか、そういった背景から娘には何を期待し、娘は自分自身の現在と将来に関してどのような思いを持っていたのか。このようなことを、3人に関して丁寧に記述している。日本ではあまり流行していないのかもしれないが、個人に関するバイオグラフィの手法は、イギリスやアメリカでは流行している。そうすると、それぞれの章が個人に関する問題を議論するゆとりを持つ。
 
患者はシビルという偽名ではなく、シャーリー・メイソンという実名が明らかにされている。ミネソタの田舎町の状況、父親のウォルターと母親のマティーの状況、そして先祖代々にわたってセブンスデイ・アドヴェンティストというキリスト教プロテスタントの一派である。世界が近い将来に終末を迎え、イエス・キリストが再びやってくると信じている。母親はもともと別の宗派であり、気持ちの上下はもちろんあるが、特に厳しい派ではなかった。家族の経済はあまりうまくいっていない。シャーリーは一人で遊ぶのが好きであり、それが深い罪であると感じ、自分の性格はゆがんでいると感じ、次第に孤立と問題を深めていった。
 
このような章が、アメリカのさまざまな都市をめぐった実業的な科学技術者の娘であるコーネリア・ウィルバーについて、そしてニューヨークに移住して古典語専門家と図書館司書になった両親の娘であるフローラ・シュライバーについて書かれている。そして、これからまず患者と医師が会い、そこでどのような「記憶」が隠されているのかを明らかにし、そこに上昇志向のジャーナリストが入っていくのだろう。これからが楽しみである。みなさまも、ぜひお読みください!
 
 

多重人格と捏造と母親の問題

Schreiber, Flora Rheta. 失われた私. 巻正平訳. 早川書房, 1978. ハヤカワ文庫.
Schreiber, Flora Rheta. Sybil: The True Story of a Woman Possessed by Sixteen Separate Personalities. Penguin, 1975.
Hacking, Ian, “Making Up People”, London Review of Books, vol.28, no.16, 17 August 2006.

 

母親が旦那と協力して子供を虐待した事件で、検察が懲役15年、裁判が8年ということを知る。色々あるだろうが、私は長いのかもしれないと思った。その関係で、以前から読んでみたかったシュライバー『失われた私』を読む。もともとはハッキングの論考で知った歴史的な事例である。ハッキングの議論の中で、アメリカの精神医学のある部分が、この30年くらいの期間に劇的な変化と不安定化を経験していること、そこには、社会による解釈と、それに合わせた患者自身の自己規定が調和していく過程があるというような議論である。そこで「多重人格」という概念の爆発的な流行が用いられていて、面白い歴史的な事例であるが、私はその書物を読んだことがなかった。母親の責任を少し考えたこと、時間ができたので、読んでみた。

もともとは1970年代にフローラ・シュライバーという女性ジャーナリストの著作が大ベストセラーとなったことが発端である。コーネリア・ウィルバーという女性の精神分析医が、ある女性患者を「シビル」と名付けて10年以上にわたって診療したこと。シビルが母親によって虐待されたことを通じて「多重人格」の患者となったこと。シビルは全体で16の人格を持つようになったこと。そのことを組み立ててシュライバーは劇的な書物を書いた。1973年に刊行された書物は、英語の書物として40万部を一気に売り、全体としては600万部の売り上げを記録した大ベストセラーとなった。

この現象を通じて、多重人格の診断が劇的に増加した。「それまでは多重人格の診断は全体で200件くらいしかなかったが、1970年代から80年代には数万件の診断があった」という冗談のような事実もあった。1970年代・80年代は、「多重人格」という診断や、それに基づく社会の態度や、それに自らをあてはめた患者の自己認識と振舞いが流行した時期である。その社会における態度の中で論争の中核は母親と子供の間の緊張した関係である。シビルが母親にどれだけ虐待されたのか、その結果多重人格になってしまったという物語である。

それに対して、1990年代には、精神医学の診断が変わり、アメリカ社会が変わり、患者の自己認識と振舞いが変わる中で、多重人格の概念は崩壊して、解離性同一性障害という名称となって残っている。母親や父親のが、「多重人格」という概念が急激に没落する。たまたま私が買った翻訳の文庫本では英語の原作でも最初の翻訳でも使われていたなかった「多重人格」という言葉が使われているが、そこには確かに一世代前の流行語である。

さらに、これは読んでいないが、シュライバーとウィルバーが協力して、さまざまな記憶を捏造したという書物もある。2011年に出版された Sybil Exposed という書物で、アメリカのアマゾンでは200人くらいの人々が熱烈に応援している。おそらくいい本なのだろうが、主張も極端な気がする。難しいですね。

『近現代日本の民間精神療法 不可視(オカルト)なエネルギーの諸相』を頂きました!

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吉永先生が編集され、中尾麻伊香さんと奥村大介君が素晴らしい論文を掲載しています!

近現代の日本の民間精神療法。非常に高い水準の書物が刊行されました。中尾さんや奥村君の素晴らしい論文はもちろんですが、最後の100ページ弱は、民間精神療法・主要人物および著作ガイドになっており、重要な人物を探すことができます。さまざまな意味で、必携の一冊です。

『図説 医学の歴史』の書評です!

私たちに敬愛されている坂井建雄先生の著作である『図説 医学の歴史』が刊行されました。医学史の一般教科書とは何かを考えた時に、一つの方向を完成させた書物です。一方で、その方向を私がどう考えるのかという批判的な部分も書きました。

しかし、それにもかかわらず、この書物は医師や看護師などの医療関係者、世界の各地域の歴史研究者、その他の多くの研究者にとって、必携の一冊であることは間違いありません。私が知る限りでは、その方向の中であれば、世界一の書物です。『医学界新聞』に書評を書いています。PDFをご覧ください。

 

https://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/pdf/3338.pdf