粘液と痰・鼻水の関係

医療英会話で頻繁に出てくる用語が phlegm (「フレム」と g を落として読みます)。もちろんガレノスの四つの基本体液の一つ、日本語だと粘液と訳されている。冷たさと水っぽさを持ち、体質としては、怠惰と無関心を表している。体液であるから、もちろん全身を流れている。

一方で医療英会話では「粘液」という意味ではなくて、たしかに粘液だが、口や鼻から出てくる「痰」や「鼻水」の意味である。Is the phlegm foul-smelling? Is the blood in your phlegm bright red? などはいずれも「痰」の意味である。同じように粘液だからという理由で便をさしたいときには、stools である。Is the blood in your stools bright red? という。

これは歴史的に移行したというよりも、もともとフレムを観察するときには痰や鼻水だったからだろうと言われている。血液を考えると、これはもちろん全身を流れている。それに対して、フレムを血液なしに観察できるといえば、それは痰や鼻水であるという局所的なアプローチでもある。

歌舞伎におけるコレラと狂気とエレキテル

松竹の歌舞伎座友の会の機関誌『ほうおう』の2019年12月号。面白いことに、医学史や科学史に直接かかわる主題が三つもある贅沢な月である。ひとつはコレラが登場するとのこと。大佛次郎の『たぬき』という作品で、初演は1953年とのこと。江戸のコレラが主題で、おそらく1858年の大流行である。コレラの悲劇と家族のテンションが重なる作品であるのだろう。原作は著作集にあるので読むことにした。次は江戸時代の狂気の舞踊。タイトルは「保名」(やすな)という清元舞踊の作品で、初演は1818年であるとのこと。これが1929年に六世菊五郎によって新演出で上演され、非常に人気が出て、現在でも上演されるとのこと。この作品は、男性である保名が、恋人の榊の前という女性が自害したため、発狂してしまう。その発狂の中で、恋人の形見の小袖を肩にかえて、桜と菜の花が咲き乱れる春の野辺で踊るというシーンである。玉三郎が踊るということで、男女を確認しました。この保名は実は天門博士の秘書をしているという設定である。この発狂の場面のあと、精神疾患は治り、白狐との異類婚姻譚があるという面白い話である。

天文博士と関係があるが、もう一つは科学史ネタである。『神霊矢口渡』という作品も上演される。この作品の初上演は1770年で、書いたのは福内鬼外というふざけた筆名の人物であるが、これは博物学者でエレキテルを作った平賀源内であるとのこと。この作品にも「琥珀の塵や磁石の針」という詞章があるとのこと。

時間があれば行きたいのですが、12月はちょっと忙しく、『保名』をビデオを見るだけになってしまうかもしれません。

医療英会話006

医療英会話キーワード辞典。一日2ページずつ音読。今日はpp.13-15 (almost) , 「アタマジラミ」head lice から「あて」当て

あたり 辺り
There are no convenience stores around here.

あたりまえ
Such an event happens every day in hospitals.
Such an event is a normal part of everyday hospital life.

あたる
Be careful not to expose your skin to too much sunlight.

あっか 悪化
Is the pain getting worse?

あつかう 扱う
a person who is hard to deal with

あっせん
I am sorry, but we cannot assist with finding accomodation for family members.

あつまる
The family all gathered around his bed.

あて 宛
Who shall I send the referral letter.

あて 当て

Do you have any relatives or friends you can count on.

 

「ダンス」とベルギーのジスラン博物館の新しい展示

 

www.museumdrguislain.be

 

ベルギーのゲント市に位置するジスラン博物館 (Museum Dr Guislan ) の新しい展示のお知らせ。タイトルは Unhinged: On Jitterbugs, Melancholics and Mad-Doctors だから、きっと展示自体も楽しく大混乱しているものかと思う。

Jitterbugs という単語は私は知らなかったが、1940年代に大流行した速く活発なダンスのこと。アメリカのフレッド・アステアジンジャー・ロジャースが映画で素晴らしいダンスを披露していた時代に流行していたとのこと。アメリカ人がこの時期に熱狂していたダンスは、さまざまな文化的な重層がある。非常に強固なプロテスタント系の宗教を軸にしていたアメリカ合衆国が、幾つかのそれを破壊して新しい何かを作っていく運動を見せていて、そこにはダンスの力があった。精神医療の歴史の中にダンスがかかわっていてもまったく不思議ではない。日本の精神病院でも「歌」が非常に重要な要因である。その気になって症例誌を読み直すと「ダンス」が登場するのかもしれない。

 

医療英会話005

医療英会話キーワード辞典。一日2ページずつ音読。今日はpp.11-13 (almost) , 「アスペルガー」から「あたま」
 
あせ 汗
sweat, sweaty, perspiration
sweat heavily
 
アセスメント
assess a patient's ability to live independently after discharge from the hospital.
 
あせも
have prickly heat on one's back
 
あせる
He is getting impatient with the slow pace of his recovery
 
あそび
You need to relax and have fun sometimes too.  
 
あそぶ
He doesn't have a steady job, but is idling his time away with nothing to do.
 
あたいする
This article on diabetes is worth reading.
 
あたえる
Give a patient permission to go home for the night.
Smoking during pregnancy is bad for the unborn baby
Cause unnecessary anxiety to patients.
 
あたたかい
It's nice and warm today, isn't it?
 
あたためる
Shall I warm up this soup in the microwave?  
 
あたま
One's head feels heavy
Feel like one's head is spinning
Does it give you a headache just thinking about how to pay the hospital fee.
She has no idea what to do about her child's violent behaviour.
You should give your brain a workout with puzzles and quizzes.
He is stubborn and sticks to his way to doing things.
 
 
 
 

朝鮮移民による聴診器の拒否と近代の新しい音と身体の世界

 

medium.com

 

メリッサ・ディクソン先生とおっしゃる若手の研究者が、聴診器と、それに批判的なイギリスの文学についての記事を書かれていたので読んだ。私が患者Bに関して持っていたもう一つの謎のある部分がかなり解かれたので、メモしておく。

 

朝鮮移民の話。患者Aと患者Bの対比をしているが、こちらは患者Bの話。

患者Bは朝鮮の医師の三男で、結婚した後に、1928年に単身で東京に移住して工場の労働者となる。それから2年ほどして精神疾患となり、比較的不安定な状態で王子脳病院に入院したのが1930年。それから、さまざまなドラマがあり、医師、看護人、他の患者、もう一人の朝鮮移民の患者などとの人間関係も非常に悪いものになり、孤立した状態となる。それが7年ほど続いて、1940年に在院の状態で死亡する。死因は肺結核である。

彼が起こしたさまざまな問題の中で、看護日誌が描き出した政治的な問題は、それほど分かりにくいものではない。詳細は略するが、彼は日本の体制を批判する知識人の一人であり、その立場で日本と精神病院への収容を批判していると考えてよい。

より難しかったのは、病床日誌が1934年から35年に記録している診断拒否の問題である。ことに、大きな問題となったのは、聴診器と血圧計を拒否したケースである。次のような流れである。

1934年5月24日
私、診察逃れる工夫ないですか。手前は馬鹿な奴だ。他人の身上をムヂュンする[矛盾?]奴はだめだ。
1934年6月21日
診察甚だ迷惑そう「誠に困るよ。なるべくなら簡単に書いてもらいたい」
1934年10月31日・11月8日・12月4日
血圧を測定せんとするにあたり、突然機械をなぐりつける / 聴診器当てられることを気味悪がり、いやがる / 胸部診察は止めてもらいたい。そんな冷たいものを勝手に胸に当てるなんてなんと失礼なことだ
1935年4月27日
検者が聴診器を握らんとすると、私の身体ではどこにも故障がないからかかることはよしてもらいたいと断る
1935年5月10日・5月16日
とても困るんだ。それ私の日誌か。それじゃ簡単に書いてもらいたいんだ / こういうこと、私大変妨害するから止めてもらいたいと症歴を指示する

ここで大きな問題は二つ。診断の技術と日誌への記録である。後者は別におき、ここでは前者だけ見る。ここで記されているのは、患者と聴診器の対立である。診察のための技術である聴診器と血圧計が敵視されている。

患者が聴診器を敵視する事態は、ヨーロッパでも起きている。もともと聴診器は、患者の視点から見ると、自分が病気を語るのではなくて、身体の身体が聞こえないかたちで情報を発し、それを聴きだして解釈できるのは医者だけである。これが音が情報となり重要な意味を持つ新しい状況である。しかも、患者が死にいたる疾病が体内に存在することを明示する情報である。患者たちは、自分の身体から出ている音が確証する疾病で死亡するのである。

それと同じようなに、多くの技術と情報が、患者の身体を無防備にする状況を作り出していた。パリの医師のピエール・ピオリー (Pierre Piorry, 1794-1879)は、「トキシン」という言語を作り出したことでも有名であるが、患者の身体に薄い金属板を接触させて打診を行った診断法を開発した人物である。彼が描く人体は、生きている患者の体内がばらばらにされるような姿を見せる。あるいは、ロンドンの医師のジョン・フォーブス (John Forbes, 1787-1861)は、ラエネクの訳者としても有名であるが、多くの医師たちがその影響を悪い方向に発展させ、医師たちが患者にメスメリズムを用いているありさまを批判している。患者の身体の内部は、さまざまな方向から透かし出され、操作されるような状況に陥っていた。

患者の側にたって、聴診器などの技術を批判した評論や文学作品も数多い。これについて書いたのがディクソン先生の記事の主力である。

 

 

医療英会話004

医療英会話キーワード辞典。一日2ページずつ音読。今日はpp.9-10. 
今日は味が難しい部分。思い出し例文は One's legs feel painful.  
 
あざやか 鮮やか
Is the blood in your phlegm bright red?  
Is the blook in your stools bright red? 
 
あし 足・脚
leg, foot, thigh, knee, shin, calf, ankle, heel, the sole of the foot, the instep, a toe, the tip of one's toe, one's toe tip, a hip joint
One's legs feel painful.  One's legs feel itchy.  One's legs feel tired.  One's feet feel sluggish.  Did you break your leg while stating?  
 
あじ 味
It has a sweet taste.
You must try to eat lightly salted foods.
 
あしからず
I am sorry, but we see patients by appointment only in this hospital.
 
あじけない
Do you feel that your life is boring /dull?
 
あしこし
lower body 
strengthen one's lower body by doing squats.
 
あじつけ
Do you like well-seasoned foods?
Do you like highly seasoned foods?
 
あじわう
Please take time to eat slowly and taste your food.
Since her husband's death, she has been going through financial difficulties.
 
Low-dose aspirin helps prevent blood from clotting.