ポストモダン時代の病気とは

 ポストモダン時代の病気論を読む。 ――正確に言うと、数章読んで、やめる。文献は、David B. Morris, Illness and Culture in the Postmodern Age (Berkeley: University of California Press, 1998).

 モリスは1992年に The Culture of Pain という傑作を出版した。『痛みの文化史』というタイトルで翻訳もされている。タイトでアカデミックな本ではないが、面白い素材をふんだんに使った良い本で、賞も受賞している。そのモリスが「ポストモダニズムと病気」という、誰でも知りたいテーマの本を出していることを知って、期待して読んだ。

 おそらくこのブログでこういうことを書くのは初めてだと思うが、完全に期待を裏切られた。リサーチは、いくつかの逸話的なものを集めているだけで、その分析も浅薄である。議論の大筋は、ポストモダン時代においては、医学=客観=disease、患者=主観=illness というかつての厳密な区分が解体されて、病気は bio-cultural になるというものである。面白いし、おそらく正しいけどが、これも、ネッド・ショーターが20年位前に出した議論の焼き直しじゃないだろうか。ポストモダン時代の病気について、「モダンと何が違うのか」ということを説明したいい本があるといいのだけれども。きちんとした本がないから、ショーターのシンプル極まりない図式がのさばっているのだろうか(笑)。