ずっと抱えていた原稿をやっと仕上げて編集者に送ることができた。仕事が一段落ついたので、未読山の中からヴェルレーヌの詩集を取り出して、久しぶりにゆっくり詩を読んだ。文献は『ヴェルレーヌ詩集』野村喜和夫訳編(東京:思潮社、1995) しばらく前にきいちごさんが記事にしたときに、あ、読みたいと思って買っておいた本。 これは「海外詩文庫」というシリーズの一冊で、歴史的な名訳も採録しているし、訳者による新訳も載せている。例えば「秋の日の/ヴィオロンの/ためいきの」は、上田敏や堀口大学をはじめ5種類の訳が載っている。
きいちごさんの記事はこちら http://blogs.yahoo.co.jp/kiichigobatake52/30377365.html
ヴェルレーヌについて、人さまに見せるような知識や洞察は、私はなにも持っていないし、そんなことを考えていたら、せっかくの「楽しみのために本を読む」時間が、ブログの原稿を準備する時間になってしまう。ただ、気に入ったものを幾つか書き写すのは楽しかった。
有名な作品と、私は知らなかった作品を二つ。 うち一つは、ひとみどんさんに教えてもらった人造美女の奇想、リラダンの名前が出てくる。 http://blogs.yahoo.co.jp/hitomidoniine/37263722.html
月の光
勝ち誇る愛 時宜をえた人生を
わびしい短調でうたいながら
自分らのしあわせを信じている様子でもなく
彼らの歌は月の光にとけて行く
わびしい短調でうたいながら
自分らのしあわせを信じている様子でもなく
彼らの歌は月の光にとけて行く
木のまの鳥を夢みさせ
木理石(なめいし)の像のさなかに しなやかな
噴水を 恍惚としのび泣かせて
悲しくも美しい おだやかな月の光に
木理石(なめいし)の像のさなかに しなやかな
噴水を 恍惚としのび泣かせて
悲しくも美しい おだやかな月の光に
ロンドン・ブリッジ
あの黒い水を見てごらん
シティの汚物をおし流すあの泥の大河をごらん
お前はそこに見るだらう、時に
太陽の光を受けて金いろに光る藁くづの流れていくのを
シティの汚物をおし流すあの泥の大河をごらん
お前はそこに見るだらう、時に
太陽の光を受けて金いろに光る藁くづの流れていくのを
出来るなら次ぎに、僕の心の中をごらん
お前はそこに仄かな光を見るかも知れない
これは僕の心が、むかし美しかった頃の、思い出のようなものだ
これがあるために、心はせめて、いくぶんなぐさめられる。
お前はそこに仄かな光を見るかも知れない
これは僕の心が、むかし美しかった頃の、思い出のようなものだ
これがあるために、心はせめて、いくぶんなぐさめられる。
どうやら希望は陽の光に似ている
いわばどちらも明るさだ
一つは荒んだ心の聖い夢となり
一つは泥水に金の光を浮かべてくれる
いわばどちらも明るさだ
一つは荒んだ心の聖い夢となり
一つは泥水に金の光を浮かべてくれる
<七大罪を祭るうたげだ おお なんと美しい
<欲望>たちがうちそろい あらあらしい光にかがやいていた
<食欲>たちは 敏捷でさんざんに使いまわされる御小姓
水晶のグラスについで バラ色の酒をまわしていた
<欲望>たちがうちそろい あらあらしい光にかがやいていた
<食欲>たちは 敏捷でさんざんに使いまわされる御小姓
水晶のグラスについで バラ色の酒をまわしていた
ダンスは新床に寄せる祝歌のリズムにのって
あまくしずかに声ながく忍びなく音にとろけていった
男声女声の美しいコーラスが波のように
うねり ひろがり びくびくとおののいていた
あまくしずかに声ながく忍びなく音にとろけていった
男声女声の美しいコーラスが波のように
うねり ひろがり びくびくとおののいていた
そしてこれらからたちのぼるやさしさに
力強い 魅惑的なやさしさに
周囲の野原はバラの花々を咲かせていた
夜は透明なダイヤのかがやきにあふれていた
力強い 魅惑的なやさしさに
周囲の野原はバラの花々を咲かせていた
夜は透明なダイヤのかがやきにあふれていた
(以下略)