『日本の天災・地変』

必要があって、『日本の天災・地変』上・下をチェックする。もともとは戦前に東京府の社会課が作成した災害年表で、年代記などから地震や洪水や噴火といった天変地異を拾って並べたもの。地震・火災・風水害・凶荒(旱魃、虫害、冷害)・疫疾・飢饉と並べられているところがミソで、たとえば飢饉と疫病の共時性などが人目でわかる構造になっている。

1311年に京都で三日病とか田楽病といわれている病気がはやったが、この流行病について「訛言」があったことが紹介されている。後には妄説とか言われ、今では風評被害とかデマとか言われているものだと思う。それは、伊勢の国のある女が鬼になって、都に来て街路を歩いているというものである。人々は群れをなしてこの鬼を追うが、会ったものはいなかった。このうわさは20日ほどでやんでしまったが、そののちに疫病がはやったという。この話は、吉田兼好の『徒然草』(50段)でも登場していて、田中貴子さんの『古典がもっと好きになる』(岩波ジュニア新書)では、教訓くさくてつまらないと思われている『徒然草』の別の魅力を伝える箇所として使われている。