日本農村の児童と青年の体格

必要があって、日本の農村の体格調査の報告を読む。文献は、氏原佐蔵「日本農村住民の発育に就て(1)-(10)」『公衆衛生』42(1928), 442-459; 520-537; 591-608; 732-737; 43(1929), 22-32; 82-95; 157-172. 216-223.

有名な農村保健衛生調査の体格部門をまとめた論文である。大正5年に決定し、大正7年から13年まで101の農村で1歳から20歳までの幼児・児童・青年を約3万7000人調査した。当時、人口の63%は「純農村」(ってなんだろう?)に、町村まで含めると82%が住んでいたので、この数字が、日本人の体格といったときの、もっとも重要な部分を示していることになる。この論文は、雑誌『公衆衛生』に10回にわたる連載で、数字が満載の統計表をこれでもかこれでもかと載せている。

身長、体重ともに、農村住民の体格は、大都市のそれよりも劣る。しかし、胸囲を較べると、農村のほうが勝っている。富裕生活者として中流以上の家庭の子弟が学ぶ直轄学校に較べると、身長、体重は著しく劣るが、胸囲はそれほどでもない。後によく現れる、がっちりした体格の田舎の子と、ひょろながいもやし体形の都会の子というタイプ分けの原型だろう。ただ、東京の浮浪児や孤児などを調べたデータでも、胸囲はそれほど悪くないことが分かっているので、単純に農村が胸囲の点では発育がいいと喜ぶわけにもいかない、と述べている。

体格改善については、この論文は、その可能性を積極的に認めている。日本人の身長は白人に較べて著しく劣っているが、この最大の原因は脚の長さ、医学っぽく言うと「下肢長さ」である(笑)ベルツなどによれば、日本成人の下肢長は身長の48.5-50.0%であるのに対し、欧米人は52-55%である。これは、かつては人種的・遺伝的な差異として「葬り去られていたが」、環境的な要因によるものだということが明らかになっている。例えば、子宮内の胎児を較べると、日本人の胎児の脚は、むしろ欧米人より長い。また、農村や都市、そして生活程度で身長が大きく違うことは、身長、そして脚の長さ(笑)は、出生後の環境に基づくものであることを示唆している。また、明治41年と大正8年のデータを較べると、日本人の体格は改善している。日本人の体格を改善することは可能である。

そのためには、農村の寄生虫保有を減らし、母乳栄養を充実させること、特に農繁期における不規律な授乳を改めさせること、動物性タンパク質を多くとらしめるために、消費組合などで大量購入して廉価で販売すること、また、それぞれの農家が土地に応じた小動物を養殖することなどを推薦している。