必要があって、東大精神科の教授であった内村祐之が書いた、精神医学の基本問題をめぐる歴史書を読む。文献は、内村祐之『精神医学の基本問題―精神病と神経症の構造論の展望』(東京:医学書院、1972)復刻版が2009年に出ている。ずっと前に昔、図書館で目を通したときに、この本はレファレンスとして持つべきだと思っていて、今年、復刻が出たので喜んで買った。内村の後を襲って東大教授になり、ロボトミーで職を追われた台弘(うてな・ひろし)が解説を書いている。
精神医学史上の偉大な人物と、重要な問題を記述の単位にした、「精神医学重要人物・基本概念列伝」の形をとっている。「精神科医が3人いたら4つの診断がある」と言われたように、精神医学があまりにも多くの「学派」に分かれ、それぞれの学派によって、診断概念という医学の最も基本的な部分が異なるという状況において、精神医学に統一らしいものを与えようとした精一杯の努力であろう。フロイトとジャネとか、クレペリンとヤスパースといった、論争なり見解の相違なりがあって、異なった診断が行われている事態について、論争の当事者たちが、なぜ、そしてどのように違った概念を用いているのかということを解説している。
精神医学者に役に立つ「歴史」というのは、こういうものなのか、と感慨にふけった。