不眠の歴史

Summers-Bremner, Eluned, Insomnia: a Cultural History (London: Reaktion Books, 2008).
優れたカルスタの論客による「不眠」の歴史の研究である。ギルガメッシュから現代まで、不眠に関係がある文学作品などの分析を通じて文明の特徴を議論するという形になっている。ポオの「群衆の人」、チェホフの「症例」などの作品を、簡潔に大胆に読み解いたもの。日本からも月岡芳年の『月百姿』などが論じられている。不眠は、現在の精神医学にとっても「うつ」の症状としてとても重要な症状の一つであるし、過去の精神病院のカルテを読んでいると、重要なことは夜に起きているという印象すら持つほど、患者を眠らせることが重要であったが、精神医学の不眠の話は議論されていない。でも、読んで失敗だったとは思わない。夜の休息の時間を、昼間の時間のための休息として価値を見出すようになったこと。それ以前には、異なった闇が複雑に作用しあうのを意識する能力があったことなど。正しいかどうか知らないが、深いインスピレーションを与えてくれる。その中で、時間と所有についての議論が素晴らしかった。

「時は金なり。それゆえ、あなたの時間はあなたのものであり、あなたのものでない。」