浮世絵と幕末・明治期科学の視覚表現

Low, Morris, “The Impact of Western Science and Technology on Ukiyo-e Prints and Book Illustrations in Late Eighteenth and Nineteenth Century Japan”, Historia Scientiarum, 21(2011), 66-87.
著者は著名な日本科学史の研究者で、江戸の解剖図から戦後の物理学まで、いろいろな問題について論文や書物を書くことができる才人である。彼が日本の戦後の物理学の歴史を論じた書物を書評する機会があったが、湯川や仁科など著名な物理学者は武士階級の家系の出身で、それが彼らが公的な視点で科学研究を考えた理由であるという議論をしていて、私は激しい違和感を表明したことがある。

この論文は、歌川広重にはじまり、明治時代の浮世絵の伝統を継ぐ絵師たちが、西洋流の視覚表現にどのように影響され、どのように新しい表現を作ろうとしていたのかということを、著名な絵師の作品の分析でサーヴェイした論文である。きっと、内外の科学史の研究者に、科学の視覚表現をもっと本格的に研究しようと呼びかけたい意図があるのだと思う。

細かいことだが、揚げ足をとらせていただく。美術史家のFukuoka Maki という名前の学者のファミリー・ネームはフクオカであり、彼女の仕事に言及するときには、”Maki argues”, “Maki traces”, “Maki concludes” (p.74)のように、ファーストネームを連呼するべきではないと思う。