文学作品の中の精神障害と身体障碍―ブルーノ・シュルツ

ブルーノ・シュルツ『シュルツ全小説』工藤幸雄訳、平凡社ライブラリー(東京:平凡社、2005)より、作品「トド」(353-363ページ)を読む。シュルツはポーランド生まれのユダヤ人の作家・芸術家で、1892年に生まれて1942年に没した。ポーランドを占領したナチスの将校に路上で射殺されるという陰惨な死に方をしている。『偶像賛美の書』の版画におけるマゾヒズムも、エロスの魅力よりマゾヒストの陰惨さに強調がある特有の深さを持つ。文学作品の多くも奇形や障害を扱ったものであり、「エヂオ」は両脚に奇形がある青年を主人公にした短編で、「ドド」は精神障害の若者を主人公にした短編である。「ドド」は主人公の名前で、子供のころに思い脳の病気をわずらって、その後遺症が精神障害となったため、子供時代からずっと「世に通用しない体」で生きている人物である。普通の子供とは違うため、彼の周りには「奇妙な特典の領界」ができあがり、実生活の圧迫がないある種の中立地帯のようなものが作られていた。ドドは学校も行かず仕事もせずに、この世界に住み、それが当然のことだと思っていたし、周りも当然だと思っていた。彼は毎日の散歩を楽しみ、そこではよくない若者たちが彼に同伴しているようである。一方で彼と同居しているヒェロニム叔父というのも、中年になって精神の健康を失い、家の中の座敷牢と表現されている一隅にいる。ドドの精神障害と、ヒェロニム叔父の精神障害は、一家の中で二つに分かれた領域となり、ヒェロニム叔父の妻がその両者の間に立っている世界であった。ドドは叔父の奇妙な行為を「ひどい気違いだ」といい、叔父はドドを「世間ではでぃ、だぁと言っているぞ」という。この「でぃ、だぁ」というのは、ポーランド語で精神障碍者のことを罵る言葉だろうか。一軒の家に住む二人の精神障碍者が、すれ違い続けるさまが描かれる小説は、どうにもならないどん詰まり感の表現と感じられる。

 

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