患者の病歴という医学上のジャンル

Pormann, Peter E., “Case Notes and Clinicians: Galen’s Commentary on the Hippocratic Epidemics in the Arabic Tradition”, Arabic Sciences and Philosophy, vol.18 (2008), 247-284.

 

論文の大半がアラビア語の手稿をテキスト化したものと、それを翻訳し解説しているアラビア語の文献学であり、わかる部分だけ読んだ。病歴 case histories は、西洋においては古典古代の医学から重要な医学的テキストの一つの形態であり、中世アラビアの医学においても重要な形態であった。その始まりはヒポクラテスの『流行病論』であり、それに対してつけられたガレノスの膨大な註釈であった。『流行病論』は全部で七巻存在するが、ガレノスはそのうち、1, 2, 3, 6 の巻がヒポクラテス自身によって書かれた「真正な」ヒポクラテス著作であると考え、それらに合計して35万語にわたる長大な註釈をつけた。その作業を通じて、ガレノスは彼の理論を形成したという側面もあり、ガレノスの熱病に関する理論的な構築は、ヒポクラテス『流行病論』の第6巻を読んで註釈をつける中で作られたという議論もされているという。

 

中世のアラビア医学は、このヒポクラテス―ガレノスの著作から非常に多くを学び、また、そこから出発して彼らの医学を発展させた。ヒポクラテスの流行病論へのガレノスの注釈は、さかんにアラビア語訳され、これがさらに注釈された。