ベスレム博物館とベスレムギャラリーとダーウィンのダウン・ハウス

 
 
2018年9月17日(月曜日)の国際ワークショップと展示。無事に終了いたしました。愛成会の精神疾患者の作品と並んで大きな注目を引いたのが、ベスレム博物館とベスレム・ギャラリーの展示です。博物館は ベスレム博物館 Bethlem Museum of the Mind という名称、ギャラリーは ベスレム・ギャラリーという Bethlem Gallery という名称であるとのこと。場所ですが、やはり私がロンドンでポスドクをしていた時に Maudsley Hospital という名称であった精神病院の巨大な敷地の一角でした。とても懐かしい空間です。 おそらく Maudsley Hospital という名称が、ふたたび、Bethlem Royal Hospital と改称し、その敷地に博物館とアートセラピーを用いるギャラリーが作られたということだと思います。
 
ベスレム博物館は美しい建築物、工夫をこらした内部の企画、歴史学者たちが熱心に読んでいた古文書の目録。この中で、古文書自体は30年前にも保存されて読むことができました。美しい建物は別の目的に使われていたのを多少改装し、工夫をこらした内部の企画は新しいアイデアだと思います。ギャラリーは現在の精神疾患の患者が色々なものを作り上げていく作品を保存して展示しているので、生き生きとした雰囲気が漂っています。
 
いずれも、ロンドンのロンドン・ブリッジやヴィクトリアの駅から15分から30分ほど乗って、少し歩いた場所にあります。チャールズ・ダーウィンの家のダウン・ハウスと近いとのこと。一日で組み合わせるのは無理かと思いますが、私も、ベスレム博物館、ベスレムギャラリー、そしてダーウィンのダウン・ハウスにも行ってみます。下にあるのはベスレム博物館の正面です。私がみた倉庫から出てきた古文書や資料が、今はここに収められているのですね。
 

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主観と客観とビッグデータと少数データ

神田橋條治. (2017). "主観・客観." 九州神経精神医学 63: 73-74.

私が出席できなかったセミナーで、九州大学精神科医の黒木先生が配った論文を読ませていただいた。私が最近考えていることと重なる主題である。近年の精神医療で主観と客観の問題がどのように扱われるかという話である。私の観点から見ると、計量的なデータをどう考えるのか、そして面白い少数データをどう考えるのかという二つの視点があり、これらの洞察をどのように組み合させるのかということである。

神田橋先生は「主観・客観」というタイトルで、精神医学の現状の中に主観と客観の双方の衝突を見る。患者の主観はどのようなものか、治療者はそれをどのように客観の枠組みで議論できるのか。確かさ、正しさはどのように客観の世界を作り出すのか。そこで患者の主観はどのように排除されるのか。治療者はどのように科学的な枠組みに惹かれるのか。患者たちはどのように啓蒙的な視点を組み込んでいくのか。そして、このようにして少数派であり、同時で個人である拠点がなくなっていくという警鐘である。その通りであると思う。

一方で、面白い少数データが作り出される一定の構造という視点もある。私は、こちらの考え方に惹かれている。モダニズムの時代の面白い少数データを、絶対の否定ではなくて、ある一定の少数データや個性がある個人を作り出している一定の構造だからと考えている。このあたりを、どのように考えて何を読むのか、一生懸命探しているところです。

『スウェーデンのアール・ブリュット発掘』のお礼

igakushitosyakai.jp

 

月曜日には慶應日吉で国際ワークショップの開催。タイトルは<国際ワークショップ 精神医療の「過去」と「現在」を展示する-医学史博物館と美術ギャラリーの社会的役割をめぐって-> 歴史学者アーキビスト、場合によっては医師という、よく一緒に仕事をしている人たちではなく、本物のアーチストやアートディレクターたちとお話しすることができた。また別の機会にも書くけれども、イングランドのベスレム博物館とベスレム・ギャラリーという二つの施設が非常に優れたお話をしてくれた。ただ、それと同じような素晴らしいお話を聞くことができたのが、アートディレクターの小林瑞恵さんの活動である。

日本では必ずしも認められてこなかった芸術は、日本の精神障碍者精神疾患の患者がつくりあげた作品である。そのような日本の作品を外国で展示して非常に高く評価されて、それが日本でも評価されるようになるという、国際社会での評価が逆流入する方向を作り出したディレクターである。彼女が選んだ作品たちは大きなインパクトであり、多くの人々が、精神疾患の患者が作り出している世界のことを考える機会だった。

小林さまにいただいたのが、刊行されたばかりの著作『スウェーデンアール・ブリュット発掘』です。30人の作家を一挙に掲載して、小林さんと他の優れた方たちが対談や論考を寄稿している素晴らしい書籍です。お値段も安めに設定されており、みなさまぜひどうぞお買い求めください! 

 

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ローレンス・M・プリンチーペ『錬金術の秘密ー再現実験と歴史学からときあかされる<高貴なる技>』(勁草書房、2018)

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もう一冊いただいた書物は、プリンチーペ先生がお書きになった名著で、ヒロ・ヒライ先生が訳されたおそらく名訳の『錬金術の秘密』です。錬金術が持つさまざまな重要な特徴を、古代ギリシア、中世アラビア語世界、中世ヨーロッパ、そして近代を先に論じたうえで、パラケルススを中心とする近世を論じた書物です。錬金術は私がものすごく苦手な領域ですが(笑)、パーゲル先生、プリンチーペ先生、ヒライ先生などのお仕事を通じて、少しは理解できるようになりました。価格は、日本語翻訳書物として高めなのですが、詳細な訳語などの部分が正確なので、日本語でのきちんとした議論で使えると思います。ヒライ先生、ありがとうございました!

西迫大祐『感染症と法の社会史』(新曜社、2018)

西迫大祐さまに『感染症と法の社会史』という書籍をいただきました。18世紀から19世紀後半までのフランスという、さまざまな意味で非常に重要な地域をとりあげています。感染症を日本語で論じてくださっています。マルセイユのペスト、パリの悪臭の問題、種痘の数学的な問題、1832年の伝統型とは異なるコレラ対策、エスキロールとヴェレルメの自殺やアルコール中毒など、だれもが知っておかなければならない主題に関して、日本語ですぐに読むことができる書物です。非常に便利で、これからきっとよく参照される書籍だと思います。恂にありがとうございました!

 

 

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飛行機と鳥の衝突を回避する巨大科学について

バードウォッチングをしていると、鳥が新幹線や飛行機と衝突する光景が時々目に入る。実際、新幹線や飛行機の便数が増えることは、飛行中の鳥のリスクが急激に増大することを意味することはほぼ間違いないだろう。そこをなんとなかするようになっているという記事。アメリカでは26年間に蓄積された150基のレーダーステーション、アルゴリズム、パターンの把握を利用して、鳥の群れの移動のパターンを作るという。5月初めに長距離移動する鳥は4億羽にのぼり、それらの空間的な移動のパターンを作るという。その鳥の移動がわかれば、それを避ける飛行機の移動が可能になる。壮大な研究の構想であると同時に、これは私が次に考えようとしている「流行性精神疾患」という難しい主題と関係ありそうな気がする。

 

AI in the sky: bird migration

Billions of birds journey between wintering and breeding grounds each year. Hundreds of millions never reach their destination. Many die from collisions with man-made structures. Dimming bright lights and slowing wind turbines would save avian lives, but the whimsical pulses of bird movement have proved tricky to plan for. A new forecasting system could help. To design it, two bright sparks used 23 years of data from almost 150 radar stations across America. The network picks up atmospheric conditions but, when filtered correctly, also captures reflections caused by bird migration. They plugged this information into an algorithm, training it to recognise patterns and make predictions. The model can forecast movements up to a week in advance with decent accuracy. Air temperature appears the most crucial factor: during balmy early May evenings, upwards of 400m birds are expected to take flight across America alone. The team are now looking forward to giving their first autumnal forecasts.

 
 

ガネーシャのお祭り!

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エコノミストエスプレッソより。今年の9月13日から、ヒンドゥー教の神であるガネーシャのお祭りがインドなどで行われるとのこと。象の頭と人の体を持ち、商業や学問の神様で、時々酔っぱらってしまう楽しさもあるとのこと。私はガネーシャの小さな像を持っていて、10年以上前に当時の Yahoo! ブログで知り合った方で、会社員で東南アジア系の骨董もする方からお買いしたものである。これまで買った骨董の中で跳び抜けて好きなものである。17世紀のタイかビルマではないかと仰ってくださった。

日本の仏教にもガネーシャが少し組み込まれて、象頭人体の妙なキャラクターを描いた日本画もあるとのこと。エコノミストの記事は、ガネーシャの像を10日ほど飾って残りは捨てるシステムだが、その時に素材や人造塗料などが環境を汚染するのは良くない。だから、粘土などの biodisposable な素材を使うように指導しているという。