地図とグラフで理解するヨーロッパの反移民・保守反動の政党について

www.economist.com

f:id:akihitosuzuki:20180912182839p:plain

 

昨日もエコノミストでヨーロッパの反移民と保守反動の政党についての記事を読んだが、今日も似たような内容の記事。この数年にわたり、反移民で保守反動の政党がいくつもの国で大きく伸びている。一方で、そのような政党の成長はピークに達したのではないか、またそのような政党がそもそもない国家もいくつかあること。このことを地図とグラフで表現してくれた。うまい利用だと思う。医学史研究者としては、イタリアとバルト海沿岸の地図を見ると、イタリアから侵入してぐるりと時計回りに旋回するとか馬鹿なことを考えますが、14世紀の黒死病とは何の関係もありませんね(笑)しかし、精神病院の患者の現住所の表記もこのように表現してみよう。

 

スペイン風邪の100周年記念の舞踏パフォーマンス

 
スペイン風邪の100周年記念の舞踏パフォーマンス。大英博物館で行われ、おそらく1918年の10月くらいのピークを記念したものになるのだろう。エゴン・シーレスペイン風邪で死亡したことにインパクトを得た作品なのだろうか。
 
スペイン風邪はとても面白い。色々な意味で医学史が新しい形をとって発展している主題なので、私もきちんと勉強しなければならない。標準的なことだけを書くと、1918年から1920年まで世界各地で流行した、H1N1 という特定の型のウィルスのパンデミックである。全世界で5千万人から1億人が死亡したと推計されている。イギリスでは死者は20万人を超え、パターンは3回にわけられる。1918年の7月という小さな第一回、10月から12月末という大きな第二回、そして1919年の2月から4月という比較的大きな第三回から形成される。日本は死者推計がかつての統計では38万人で、速水先生によれば45万人である。この計算は、歴史学者からみると原理的にものすごく難しい。こちらも3回にわけている。1918年の10月から1919年の5月までが第1回の最大の流行、そして1919年の12月から1920年の5月までが、かなり大きかった第2回の流行である。1920年の末から1921年までがごく小さな第3回の流行である。これはグラフにはとっていない。
このような公衆衛生的な研究と社会科学系の研究に合わせて、日本では岡田晴恵先生が『強毒性新型インフルエンザの脅威』で与謝野晶子宮尾登美子『櫂』を取材した分析をされている。まだ原作を読んでいないが、岡田先生による宮尾登美子『櫂』で、村人の生活の末端に与えた新型インフルエンザの分析は素晴らしい。今調べたら 宮尾『櫂』はKindle で無料で提供されているので、さっそく買っておいた。日本でも Kindle が本格的な力を出し始めたのかという印象も持っている。
 

f:id:akihitosuzuki:20180911183952j:plain

 
岡田, 晴恵 et al. 強毒性新型インフルエンザの脅威. 増補新版 edition, 藤原書店, 2009.

移民と民主主義とスウェーデンでの選挙

www.economist.com

 

民主主義と移民の問題は、世界中で強い不安を持つ人々が多いだろう。移民が先進国のさまざまな水準を将来的に上げる可能性は高いが、現在の段階で落としている国が多いことも事実である。貧困率や犯罪率も高い。そのせいでイギリスの Brexit が勝利したり、アメリカでトランプが大統領選に勝つという、現在の先進国にとって「ありえないこと」、私にとっては「あってはいけないこと」が起きている。これが民主制の結果であるとしたら、民主主義の時代が終わりつつあるのだろうかなどと思う。

その問題を正面から取り上げた総選挙がスウェーデンで行われたとのこと。基本は移民を受け入れてこれまでの良い意味で教科書的な政策をとる与党の Social Democrats と、移民を拒んで保守反動的な政策をとる Sweden Democrats の対立であった。後者の「スウェーデン民主党」が近年好調に伸びていたため、「社会民主党」という与党が敗北し、スウェーデンでも保守反動が強いということが民主主義によって示されるのかという不安があったとのこと。

しかし、今回の総選挙の結果は、私たちがほっとする現象だった。左翼側の社会民主党が勝利して第一党の位置をキープし、第二党は同盟系であり、保守反動のスウェーデン民主党は第三党にとどまったという。反移民派の反動組は政権には入れないだろうとのこと。こうなったのは、民主主義が機能した規模が大きく、投票率が高かったからとのこと。民主主義が十全に機能し、そしてその機能が継続すれば、反移民主義などを唱える政権が民主主義で勝ち続けるということは起きないということを示唆しうるエピソードだと思う。

そして、スウェーデンがこれができるのか。それなら日本にもきっとできる。それを意識しよう。

Work in Progress: Young Scholars’ Workshop in English

9月19日に慶應義塾大学・日吉キャンパスの来往舎の2階会議室で英語セミナーを開催いたします。文学部の学部3年生から、ポスドクや准教授や教授などの作り出す Young Scholars' Workshop in English です。終了後は、キャンパスの Hub というイギリス風のパブでビールを飲んだりフィッシュ・アンド・チップスなどを食べたりいたします。こちらの時間は2時間くらいまで。ぜひいらしてくださいませ! 日吉キャンパスは日吉駅が分かれば目の前にあります。

 

www.keio.ac.jp

 

***********

 

Work in Progress: Young Scholars’ Workshop in English

 

Date: Wednesday, 19 September, 2018

Time: 9:00-17:05

Location: Keio University, Hiyoshi 慶應義塾大学日吉キャンパス 来往舎2階会議室

 

Part I:

9:00-9:50 Yuto Kano (Undergraduate Student, Keio University Faculty of Letters)

“Tojisha-ness of Autism in Japan.”

 

9:55-10:45 Sayaka Mihara (Ph.D. Candidate, Keio University Graduate School of Human Relations)

“Therapeutic Choices for Childhood Illness in a Tokyo Suburb, 1938-1939.”

 

10:50-11:40 Noriko Oshima (Ph.D. Candidate, English and American Literature, Keio University Graduate School of Letters)

“The Reformation of Human Nature: Plant Breeding and Puritan Reformation In Marvell's Poetry.”

 

11:45-12:35 Rie Yamada (Ph.D. Candidate, The University of Tokyo Center for Philosophy)

“Psychosomatic Medicine and Eating Disorder as an Intractable Disease in Japan.”

 

12:35-13:30 Lunch Break

 

Part II:

13:30-14:20 Motoyuki Goto (JSPS Fellow, Keio University Graduate School of Human Relations)

“Three Functions of Psychiatric Care Beds and the Transition of its Balance in Japan.”

 

14:25-15:15 Eri Nakamura (JSPS Fellow, Keio University Graduate School of Human Relations)

“Broken Men in the ‘Emperor's Army’: Medical, Social and Individual Recognition of War Neurosis during the Asia-Pacific War.”

 

15:20-16:10 Akiko Kawasaki (Associate Professor, Faculty of Letters, Komazawa University)

“Illness and Nursing in W. M. Thackeray’s Pendennis.”

 

16:15-17:05 Akihito Suzuki (Professor of History, School of Economics, Keio University)

“Public Health, Animal Experiments, and Patients of Asymptomatic Typhus in Japan, c.1925-c.1945.”

 

高齢者の家庭における高度技術的な健康ケアの分析

www.academia.edu

 

四谷のドイツ日本研究所のスザンヌ・ブルキッシュ先生の論考。生活と技術が融合していく最も大きな領域は、家庭における高齢者の介護や自活のためのテクノロジーの利用なのかもしれません。私が少年時代の頃のマンガ風の近未来図ですと、技術と生活を最も利用したのは青少年でしたが、それが自宅の高齢者になっていこうとしているのですね。とても面白く、表や図版もたくさんある英文の報告書です。ぜひお読みください!

 

ドレッシング入門

私はお料理が絶望的に下手である。できるお料理は三つだけで、卵をゆでる、ソーセージをゆでる、そしてアーリオ・オーリオ・ペペロンチーノのスパゲッティを作ることである。それ以外のお料理はすべて実佳がしてくれて、どれも夢のように美味しい。

しかし、実佳が根本から苦手なお料理が一つだけある。それがドレッシングである。実佳のドレッシングには酢がとにかく多い。酢でもレモン酢でもバルサミコ酢でも、実佳のドレッシングは酢が多い。実佳が作ったドレッシングの酢とオリーブオイルの比率は、彼女が言うには1:1であり、私の考えではたぶん2:1である。酢が2でオイルが1というのは、私は無理である。

これをめぐって30年近い結婚で、複雑で様々な経緯があったけれども(笑)、今回、私がドレッシング係になった。『ラ・ベットラ 落合務のパーフェクトレシピ』という素晴らしい本があって、Kindle だとカラー図版入りで100頁を超える料理本が200円で買える。お酢オイルは1:4の比率であり、お塩と胡椒を入れるタイミングなども書いてある。書いているイタリア風の文体も私は好きである。ボンゴレやトマトソースなどの他のレシピも、少し手を出してみようかしら。ぜひご一読を!(笑)

新しい学術論文の体制へ

www.timeshighereducation.com

 

教員として、院生やポスドクに対して、単著を著名な出版社から出し、学術論文を一流誌に書くことを勧めている。医学史はグローバルな学問性が増加するべきだから、英語の一流誌が多く、だから英語の医学史の国際的な一流学術誌に投稿するよう圧力を若手に掛ける。それが就職にもプラスだと考えている。この考えが根本から崩壊した経験はなかった。おそらく在職中はこの態度を保ち続けると思う。

しかし、これからの時代にどうなるかは、まったく見えなくなって不安である。ことにポイントになるのが、オープンアクセスの領域であり、早さの問題である。一流学術誌に論文が掲載されるためには、ものすごい量の査読が必要になる。 Science や Nature の自然科学系の議論になると、複数の一流学者に素早く的確なコメントを要求している。医学史ですら、かなりの量の査読をする。短くて半年、場合によっては数年の期間が、発見と出版の間に経過する。

この数年間の待機がなんの問題ないという人文社会系の学者もいるだろうし、それはまったくかまわない。しかし、速度の問題を多くの人文社会学者や歴史学者が経験している。研究の進展によって新たに事実が明らかになり、それも公開されなければならない。そうすると、投稿から公開が査読システム以外で行われ、かなりのスピードで行われるべきだということになる。もちろん、そのシステムが査読性を失うだけだと、掲載された論文はかつての一流誌が与えることができた権威も失うことになるだろう。