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帰ってきた「シェルショック」

ナショジオ日本版の2015年2月号で「爆風の衝撃に苦しむ帰還兵」という記事を読む。医学史の研究者が読むと、歴史的に非常に重要な意味を持っている記事であり、おそらく意図されたものだと思う。内容としては、21世紀に入って、主として中東地域の戦争において25万人ほどのアメリカ人の将兵がTBI (Traumatic Brain Injury 外傷性脳損傷)に罹患しているというものである。TBIは、主に手りゅう弾などの爆発物が与える爆風が直接の原因となり、爆風を浴びた将兵の脳に物理的な衝撃・損傷が与えられ、その損傷が心理障害を引き起こす疾病である。脳の画像や、死亡した患者の脳は、民間人とはっきりと異なっており、脳の損傷なしに主に心理的な理由で心理障害を持つPTSDとははっきりと異なった疾患である。

 この疾病の記述が当たり前のように見えて、仕組まれたのではないかと思えるような歴史的な意味を持っているのは、いまからちょうど100年前の1915年に、第一次世界大戦時の英国軍隊からまったく同じような報告がされたからである。その報告は医学雑誌 Lancet に投稿された論文であり、そこで shell shock (シェルショック)という病名が初めて使われた。イギリスの兵士が、ドイツの砲撃の衝撃で心理障害を出しているという内容であった。その後、この疾病 shell shock は、爆風の物理的な衝撃による障害ではなく、心理的な原因と外傷によるものであることが証明され、爆風そのものはある意味で無罪化された。医学史の授業では、誰もが「当初は物理的・身体的な原因が云々されたが、すぐに心理的な原因であることがわかった」と説明する主題である。

 それからちょうど100年。今度こそ、「爆風」が心理障害の原因であることが分かったという記事である。これまで歴史学者は心理的な原因に夢中になって、爆風を無視してきたのか。なんてこった(笑)

 この記事は、患者に仮面を作らせてそれを着けて写真を撮るという、アートセラピーと彼らが呼ぶものも企画している。数十の仮面はどれも凄惨で不気味であり、それがどうアートセラピーなのかはよくわからないが、一見に値する。

 

http://nationalgeographic.jp/nng/article/20150123/432925/index3.shtml?img=ph2_1.jpg