誤訳訂正 - 「アメリカの母体死亡率はなぜ発展途上国より高いのか 」について

先日アップした記事、「アメリカの母体死亡率はなぜ発展途上国より高いのか」について、もとのエコノミストの記事の誤訳に基づいているという指摘を受けました。直接私の目につく形で指摘してくださったのは、ツイッター上の くまさん@bibliobibi でした。お礼申し上げます。他にも気がついた方が多くいらっしゃったと思います。

 

間違いを端的に言いますと、グラフ上のdeveloped countries を developing countries と勘違いして、あとはずるずるとその間違いを引きずりながら全体にどんどんおかしなトーンになっていくというものでした。みっともない間違いです。お詫び申し上げると同時に、猛省いたします。以下に、とりいそぎ手直しした記事を残しておきます。

 

エコノミストの記事より。アメリカの母体死亡率maternal mortalityが、過去25年間にわたって上昇しているという異様な事態が起きているが、それはなぜかを分析して面白い。そもそも事態を整理すると、母体死亡率というのは、妊娠と出産のときに妊婦・母親が合併症などで死亡する割合である。1930年代までは約100分の一、対10万の指標でいうと1,000程度の母体死亡率があった。それが20世紀の中期から激減し、現在ではイギリス、ドイツ、日本などは対10万で5程度である。

 

さて、この指標を1990年と比べてみると、イギリス、ドイツ、日本はいずれも10-20で、それが2013年に5に減少している。先進国全体をあわせても、1990年には25だったのが、2013年には12になっている。しかし、アメリカだけ、1990年に12だったのが、2013年には18.5 になり、50%以上も上昇し、先進国の平均よりはるかに悪い劣等国になっている。だいたい、2003年と2013年を較べて上昇している国などというのは世界で8つしかなく、アメリカ以外はアフガニスタンとか南スーダンとか、特殊な状況におかれている国である。

 

それはなぜか。なぜ世界で最も豊かな国の母体死亡率が継続的に上昇して先進国の中で劣等な数字になっているのか。複数の説明が提示されており、アメリカの計数能力が優れていて、世界の他の国が数えていないものを母体死亡に組み込んでいるとか、出産年齢が上昇しているからリスクが大きいものが増えているといった説明はどちらもダメである。肥大した自我をダメージから守ってくれる「統計のごまかし」というのは、そんなにいつでも微笑んでくれない(笑)帝王切開が多く、出産の1/3が帝王切開だということは関係あるかもしれない。しかし、まぎれもなく一番大きいのは、アフリカ系アメリカ人が貧困で肥満しているという状態になり、肥満が出産に悪影響を及ぼしているからではないかと考えられる。アメリカの医療保険のシステムも悪影響を及ぼしているという。

 

メルク社が、世界の母体死亡率を下げるプロジェクトを行った時に、そこにアメリカが選ばれることになった。責任者は「発展途上国ばかりかと思っていた」という。

Economist, Jul 18th 2015 | PHILADELPHIA | From the print edition

 

http://www.economist.com/news/united-states/21657819-death-childbirth-unusually-common-america-exceptionally-deadly