ウェルカム財団の MOSAIC に、アフリカのルワンダにおけるHPV予防ワクチンと子宮頸がんの記事が掲載された。ルワンダは、コンゴ、ウガンダ、タンザニア、ブルンジに囲まれた小さな地域であるが、人口は多い。ドイツ植民地からベルギー植民地となり、1962年に独立した東アフリカの国家である。1990年代にルワンダの虐殺と呼ばれる凄惨なホロコーストがあり、国内で100万人前後が殺されている。そこから、人々の健康について懸命な政策を行っている、基本的には良いありさまが描かれている。
HPVのもとは、ヒトパピローマウイルスであり、これを省略してHPVという。100種ほどのヴァージョンがあり、そのうちの数種類が、性病となりやすい。性交や、性器との接触などによって感染する。
その性病がある程度の長さを持って継続すると子宮頸がんになる。子宮頸がんは、世界全体では50万人の新しい症例で、30万人ほどが死亡する。日本では年間1万人ほどの患者が現れ、3,000人程度が死亡する。この子宮頸がんの発生を抑える方法が、HPVのワクチンを接種することである。2006年にドイツで開発されたワクチンで世界各国で接種されるようになって、子宮頸がんの発症率や死亡率が低下することとなった。一方で、このワクチンにまだ危険性があり、いくつかの先進国の国家では、自由選択で接種するようになった。アメリカやイギリスでも、ワクチンへの信頼がゆらぎ、デンマークやアイルランドではかなりの不信感の増大があった。そして、私が知る限りでは、世界中でもっとも大きな打撃を被ったのが日本の状況である。この記事では、かつては70%のワクチン接種率があったのが、一気に1%に落ちたという。その状況もあって、日本においては、子宮頸がんの死亡率が増大しているという。胃がんや肺がんの死亡率は減少しているのに対し、子宮頸がんだけは上昇していることは、おそらく大きなダメージである。
ルワンダのHPVのワクチンの接種は、1990年代の虐殺後で、極度に貧しい状況であったが、色々な意味で成功した。もちろん大きな仕掛けは必要である。進歩した医療技術の導入、国家のラジオによるキャンペーン、国際的な製薬会社のメルクによる協力、外国で教育された人々による貢献などがある。しかし、私の印象に残ったのは、それよりも小さな基準での接種であり、接種を実行するローカルな仕組みが、医療的というよりも社会的と呼んだほうがいいことである。接種されるのは小学校を卒業する12歳前後の年齢で、それぞれの村にいるヘルスワーカーと初等教育の先生が協力している。この人たちが、小さな村に住み、小学校で教えているから、少女たちを知っている。これは非常に社会的な状況である。そこに先端的な医療が入っていくことは、大きく成功するだろうと思われる。
一つ、大きな問題になっていたことが、12歳の少女が、ある意味で性病にならないワクチンを接種することを、親がどのように受け取るのかという問題である。13歳になったら性的に自立し、性交しても性病にならなくて、ある種のがんにかからないから、それでOKだというメッセージにも解釈できる。両親、おそらく母親と学校教師やヘルスワーカーの間に、丁寧な同意が形成されたのだろう。