1930年に出版された台本である「神経衰弱の光秀」を読む。作者の石角春之助(いしずみ はるのすけ、1890 - 1939)はジャーナリストであり、医師ではないが、医療と身体の問題に関してさまざまな出版を積極的に行っている。何かの機会に多くの書物などを読んでみよう。今回は精神疾患の問題としての「神経衰弱」を明智光秀に読み込むという面白い歴史と精神医療の使い方をした台本を読んでみた。ものすごく面白く楽しい話なのでストーリーの基本をメモ。国会図書館からDLできます。
京洛、桜が散る頃、青空の午後に、光秀と美佐於(みさお)が対する場面が最初の場面である。光秀は闘いで大敗して、それらは美佐於のせいだと責める。美佐於は冷静すぎ、いつわりの妻である。「わしは愛のない世界には一刻も活きてはいられない」「わしはもっと熱情的な妻が欲しい」「わしはこうして悶々のうちに死んでいく」子供がうまれると子供ばかりである、だから子供を殺しにいくといって美佐於とちょっともみ合い、美佐於が泣いていると、その姿を見て「ニタリと」笑う。「許してくれ、これがわしの病気じゃ」という。
第二場は、信長と連歌師の紹巴が話しているところに、森蘭丸、光秀、美佐於が順々に入ってくる。紹巴が光秀は病気であり、頭が悪くなる時には痴呆のようになる、逆に怒らせると痴呆が治るという。そこで、光秀を怒らせるために、「お前は心の底まで腐っている」といい、また、彼の前で信長が美佐於を誘惑するということをする。それに対して光秀が怒り、それを蘭丸が止めるという事件が起きて終わる。
何をどう言えばいいのかよく分からないが、とても面白い。基本は、家庭と職場の力学が共存しているという、当時の東京の中産階級などで大きな問題になっていることを、16世紀末の著名な武将たちに読み込んだという形である。