旨味・ウマミ・savouriness

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Umami (旨味)の概念が欧米でも定着しつつある。化学者やプロの調理人だけでなく、スーパーでも簡便に手に入る商品でもウマミという考えが使われているとのこと。その事情に関する短くて面白い記述。

 

話は池田菊苗(1864-1936) という東大理学部の化学の教授から始まり、グルタミン酸ナトリウム (MSG)から味の素の説明、そして20世紀後半のMSG の利用と活用までに及んでいる。ウマミは umami として英語になっているが、普通の英語にすると savouriness であるとのこと。チキン、ワカメ、パルマハム、ブルーチーズ、味噌、マーマイトなどがウマミを含んでいるが、そこに「キムチ」が入ってくるのが、私としては面白い点である。

 

ちなみに、この記述を読んでいるうちに、口の中に唾が湧いてくる感じを得たのですが、皆さまもそうですか? ここが、ウマミが条件反射を形成しているかどうかという第二段階の話ですね(笑)

森田先生、そこは割り算ではなく引き算をするところです(笑)

森田正馬(1874-1938) に関する短い論文を書いている。森田は大正・昭和戦前期に活躍した精神病医である。神経衰弱に対する「森田療法」の創始者として著名であり、一般人向けに書いた精神医療の書物はベストセラーとなって20版を超えて刊行されていた。熱心な信奉者や患者がいたので、全集も全七巻で刊行されており、それに詳細な伝記と思い出をつづった本が足されるから、全9巻の全集が出ていることになる。日本でこんな栄光を受けた精神医学者など、日本人の医師では森田だけである。

医学の理論としては、仏教と頓智がほどよく混じった面白い感じで、読んでいて楽しい。学問的な功名心、特に自分の理論を外国(特にドイツ)に知らしめたいという思いは非常に強く、東大の同窓生で本物の秀才だった下田光造に頼んで、ドイツの精神医学の一流誌に何回か投稿したが、理解不能であるとしてリジェクトされていたのも、可愛いい感じがする。ところどころで、間抜けなことを言うのもご愛敬という感じである。その間抜けなところを一つ紹介。

森田の最大のベストセラーで、『実業之日本』に連載されてベストセラーになった『神経衰弱及強迫観念の根治法』という書物で、性の欲望と死の恐怖が相対的なものであるという森田の得意のくだりを論じる箇所がある。欲望と恐怖は相対的なもので、絶対的なものではない。ニュートンの力学は絶対的なものだから都合が悪いが、アインスタインは相対的だから優れている。それを論じるのに、森田先生は二つの汽車の例を出す。我々が静止して、汽車Bが10の速度で走っているとすると、汽車Bは速度10で走っているように見える。しかしこれは絶対的なものではない。我々も10の速度で走っている汽車Aに乗って、汽車Bを見ると止まっているように見えるし、我々が20の速度で走る汽車Aに乗っていると、汽車Bは後退しているように見える。我々が5の速度の汽車Aに乗っていれば、汽車Bは2の速度で走っているように見えるではないか。このように汽車の速度というのは相対的な概念なのである、という。

森田先生、その赤字の部分は、10を5で割って2という数字を出してはいけない、10から5を引いて5の速度とするべきところです。うううむ。

 

しかし、こういうことを書いても、何か憎めない感じがするのが、森田の偉いところなのだと思う。

アフリカ音楽について

エコノミストのコラム風のニュース( Economist Espresso) で、アフリカの音楽の将来について読む。現代のアフリカ音楽は、アメリカや中南米に移民した人々が、アフリカの伝統音楽をベースにしてさまざまなジャンルの音楽を作り上げて世界に広まったものである。中南米で発展した「アフリカ音楽」が再びアフリカに逆輸入され、そこで再びアフリカの地元の力で再加工されるという方向もあること。これからの音楽の世界にとっては、急速に伸びていく大きな市場である。(図1参照) 
 
私自身は、西洋のクラシックではオペラとピアノを時々聴いて、あとはジャズや中南米などの、アメリカを経由した「アフリカ」音楽を聴く。中国―東南アジア―インドなどの音楽も少し聞いてみたけれども、ちょっと私には難しい音楽が多かった。アフリカ音楽では、NY のブルックリンにある Afropop Worldwide というラジオ局が有名であることを知った。音楽を少し聞いたら、たしかに音楽も解説も面白い。皆さまもどうぞ!
 
 
 

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VR (ヴァーチャル・レアリティ)の医療的な利用

麻酔に関する面白い記事。現代の医療には、さまざまな場面で麻酔が必要になる。面白いことに、そこには地域差がある。きちんとしたデータを持っていないが、日本での麻酔の利用は、欧米諸国のそれよりも程度が低いのだろうと私は思っている。ことに麻酔が用いられているのがアメリカで、化学的に合成される阿片様の物質(opioid) の80%はアメリカで消費されている。そのアメリカで、VR (Virtual reality)を用いて、麻酔や心理作用を医療に利用できないかという動きが広がっているという。

この記事は、VR の医療的な利用を試みている医療の最前線の話。メキシコの医師が、自分の息子が小さい時にスパイダーマンのゲームにはまって、無我無風になったのをを観察して、この心理的な集中を医療に用いることができないかという試みを始めたことを素材にしている。とても面白い。

https://mosaicscience.com/extra/how-vr-changing-science-and-medicine?utm_campaign=748655_Mosaic%204%20May%202017&utm_medium=email&utm_source=dotmailer&dm_i=2PXJ,G1NZ,VB6VH,1NUFM,1

感染症の常在地・孤立地の間の移民の問題

予防接種という人為的な予防医学が広まる前の話。ただ、原理的には、予防接種以降の時期でも話は成立する。
 
ある感染症に関して、その感染症が常在している地域と、それを経験したことがない孤立した地域がある。常在している地域では、そこで生きている人間は、その感染症を経験したことがあり、それに対する免疫を持っている。孤立した地域の人間は、その感染症を経験したことがないので、免疫を持っていない。常在地と孤立地の関係を較べると、より生物学的に強力なのは、感染症に痛めつけられて抵抗力をつけて強くなったヒトが住んでいる常在地である。最も著名な例では、南北アメリカとヨーロッパが15・16世紀に向かい合ったとき、ヨーロッパ人が持ち込んだ天然痘などの感染症により、南北アメリカの原住民は壊滅的な被害を受けた。天然痘という感染症については、ヨーロッパ人は一度罹患して免疫をヒトばかりから構成されていたから、アメリカとの接触によって何の影響も受けなかった。同じように、中国という天然痘の常在地と日本という孤立した辺境を較べると、この出会いが確実に起きたのは、紀元8世紀の日本における天然痘の大流行である。この流行は九州の大宰府に始まり、数年にわたって日本を席巻した。
 
これは、常在地から孤立へのヒトの移民に伴なう生態学的な現象である。その反対に、孤立地から常在地への移住については、なかなかいい例がないが、ハワイのカメカメハ2世とその妻のカマーマルの例はどうだろう。
 
カメハメハ2世(c.1797-1824) は、ハワイの最初の王であるカメハメハ1世(1736?-1819) とその正妻であるケオープオラニ(1778-1823) の子供である。カメハメハ2世の妻はカマーマル(Kamamalu, 1802-1824) で、父はカメハメハ1世、母はカラーケア・カヘイヘイマーリエ(c.1778-1842) の子供である。カメハメハ2世が18歳、カマーマルが14歳くらいのときに、二人は結婚した。カメハメハ2世は、同じ父を持つ異母妹である少女と結婚したことになる。
 
いずれにせよ、このハワイの王と妻は、ヨーロッパを訪問した最初のハワイ人である。1824年の彼らの訪問はイギリスで大きな話題となったが、いずれもロンドン滞在中に前後して麻疹に感染して死亡した。カメハメハ2世とカマーマルは当時20代であったが、いずれも麻疹を経験したことがなかった。これは、麻疹が常在していたヨーロッパでは疫学的に孤立した地域で誕生・出生した人物が持つ疫学的脆弱性の一つの象徴である。
 
この感染症によって免疫の力は違い、天然痘や麻疹のように一度罹患すると終生にわたって継続する免疫が得られるものもあれば、インフルエンザのように、それ自体が複雑な型を持っていて、一度インフルに罹ったからといって、他の型のインフルに対する免疫は持てないようなものもある。一方、その感染症を疫学的に孤立した地域に、別の地域で発展した感染症が侵入すると、免疫を持っていない孤立した地域の住民に大きな被害が出る。

緩募:日本の顔面美観損傷・美容整形手術の歴史や社会科学的分析の専門家

イギリスの有力大学の先生からのお問い合わせ。別の仕事で一緒にお仕事していたときに、日本の顔面損傷、美容整形手術について、歴史学者や社会科学の学問の専門家を知らないかとのこと。イギリスの国際共同研究への申請にかかわるお仕事のようです。この件につき、私が仲介いたしますので、興味がある方、ぜひやってみたい方は、私にメールやメッセージなどをいただければ、この先生を紹介いたしますので、ご自身で問い合わせていただければ。 よろしくお願いいたします。

 

20世紀の偉大な心理学者100人のランキング 

Haggbloom, Steven J., Renee Warnick, Jason E. Warnick, Vinessa K. Jones, Gary L. Yarbrough, Tenea M. Russell, Chris M. Borecky, et al. "The 100 Most Eminent Psychologists of the 20th Century." Review of General Psychology 6, no. 2 (2002): 139-52.

偶然知った特集。2002年にアメリカの心理学の雑誌 Review of General Psychology に掲載された論文で、20世紀の心理学者を重要な順に100人ランキングするという論文が掲載されたというので、早速ダウンロードした。どのような基準で選んだかという説明もきちんとされている。

100人をランクしたリストをアップロードした。1位は B.F. スキナー、2位はピアジェ、3位にフロイトという順位。この順位や、他の順位も、分かるような、分からないような(笑) 分からないというのは、他のランキングの順位とうまく合わないことである。他の三つのランキングで、1位―1位―3位を取っているフロイトが、このランキングでは3位にとどまっていることは、明らかに反フロイト的である。反フロイト的なのはまったく構わないけれども(笑)、そのことと重要さのランキングを決めるのは、やはり別の話かなと思う。

 

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