フランスの薬学の歴史

Kahn, Axel et al. くすり・軟膏・毒物 : 薬学の歴史. 薬事日報社, 2017.

フランスの薬学の歴史の翻訳を見た。非常に素晴らしい。

パリ・デカルト大学の薬学・生物学部がベースである。13世紀の半ばにシャルトル修道会の修道院を作り、そこで植物園か薬草園を作るようになった。18世紀初頭から国際的な名声を得て、1,400本の樹木類を持つようになった。1578年には優れた薬剤師のニコラ・ウェルが「キリスト教善意の家」を設立し、17世紀初頭にはパリ薬剤師共同体が受け継ぎ、1630年以降にはパリ薬剤師組合がここに本部を置く。1777年には「パリ薬剤師養成学校」となり、フランス革命時に解散させられるが、その後に再建される。1875年に薬学の学校が造られる。美しい建物や内装がすばらしいとのこと。

何よりも重要なのは、そこが豊かな史料を持っていることである。公開審査室、医療博物館、薬物、道具などが展示されているとのこと。この書物に掲載されている画像も、私が初めて観るものばかりである。選んでくるセンスも素晴らしい。内科医か薬種商が浣腸器を持ち、患者も肛門に液体を注ぐあたりが、一昔の医者と患者が持っていた液体的な身体観を表現している。それと同時に、ルーブルの所蔵されている作品であることも、やはりセンスがいい。20世紀初頭の女性のエロスをさりげなく表出するあたりも、さすがフランス芸術の全盛時代に作られたと実感する。

Hektoen Inernational の記事を読むと面白さがアップします。ルイ14世は一生で浣腸を2,000回行ったとか、色々と考え直す事例がありますね。

hekint.org

 

呉秀三の私宅監置論文が英訳されました!

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0957154X18818045#articleCitationDownloadContainer

 

Hashimoto, Akira. "‘The Present State and Statistical Observation of Mental Patients under Home Custody’, by Kure Shūzō and Kashida Gorō (1918)." vol. 0, no. 0, p. 0957154X18818045, doi:10.1177/0957154x18818045.

愛知県立大学橋本明先生。 History of Psychiatry に呉秀三・樫田五郎『精神病者私宅監置の実況』の一部を英訳して発表されます。家族・親族から精神病院への移行が始まる時期に、精神病院を擁護する東大教授の呉秀三の文章です。金川英雄先生により2012年に現代語訳もされています。ぜひ、どちらもお読みください!

This text, dealing with the private confinement of the mentally ill at home, or shitaku kanchi, has often been referred to as a ‘classic text’ in the history of Japanese psychiatry. Shitaku kanchi was one of the most prevalent methods of treating mental disorders in early twentieth-century Japan. Under the guidance of Kure Shūzō (1865–1932), Kure’s assistants at Tokyo University inspected a total of 364 rooms of shitaku kanchiacross Japan between 1910 and 1916. This text was published as their final report in 1918. The text also refers to traditional healing practices for mental illnesses found throughout the country. Its abundant descriptions aroused the interest of experts of various disciplines.

 

 

パリのサンタンヌ精神病院の患者のアート作品展

musee-mahhsa.com

 

h-madness の通知から、パリのサンタンヌ精神病院が患者の芸術・アート作品を収集してウェブ上に展示していること、恥ずかしいことですが、初めて知りました。ヴァレンティン・マニャンが精神科医であり、ラカン精神科医であったこと。患者としては、アントナン・アルトールイ・アルチュセールが著名な人物でした。

ギャラリーに1930年代の日本人の作品が掲げられており、氏名はわかっていないようです。あるいは匿名にしてあるのかしら。突き刺すような作品です。こちらからご覧ください。

musee-mahhsa.com

日本の廃墟病院

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日本の病院や精神病院は、数で言うと圧倒的な優位は私立だった。私立ゆえ、廃墟となった病院も数多く存在する。日本の経済や社会の激動に反応しているからである。精神病院でいうと、ヨーロッパやアメリカの廃墟精神病院も有名で、写真集も出ている。高級ホテルやマンションになった例もある。日本の精神病院も、何がどうなっているのか、そしてこれからどうなるのか、着目している人々もいる。

このサイトはフランス人の写真家が日本の三つの廃墟病院を写真に撮ったサイト。死亡した患者の身体部分などの標本もあったとのこと。昔の精神病院はどこもこうだったというのでなく、廃墟化した病院が割合でどのくらい存在するのか、どうして買われなかったのか、きちんとしたことを知っておきたい。

 

医学中央雑誌と 医中誌 Web の1963年までの遡行

お医者さまや医療関連者の皆様は 、おそらくほぼ全員『医学中央雑誌』を使ったことがあるだろうし、医中誌 Web はもっと使っているかもしれない。現在では、医中誌 Web には、平日で一日平均1万9,000件のアクセスがあるという日本の医学論文の巨大なデータベースである。

『医学中央雑誌』は、1983年から色々とあって、デジタル化に移行する。歴史学者にとっての問題は、その前の、1903年から1983年までの部分、現在彼らが OLD医中誌と読んでいる部分である。この部分は色々とお願いして、医中誌 Web でも検索できる方向に進んでいる。これは1983年から逆行していくという方法で入力がされている。現在では1963年まで入力されているから、さまざまな現象に関して、1963年からのデータベースを検索することができる。ぜひお使いください!

1903年から1963年を経て1989年までに関しては、国会図書館がデジタル画像で公開している。私はまだ紙雑誌を使いますが(笑)

後藤基行『日本の精神科入院の歴史構造』(東大出版会、2019) を頂きました!

学振 PD の後藤君から、『日本の精神科入院の歴史構造』(東大出版会、2019)を頂きました!日本の精神科入院の歴史構造についての記述です。図は21点、表は33点という豊かなデータに支えられたソリッドな展開。そして巻末ではこのように記述しています。

「戦後日本において展開してきた精神医療をめぐる精神病床供給・精神科入院の構造は、まさにこうした日本社会における倫理的規範や制度的義務をめぐる家族の内部の力学を無視しては説明できないように思われる」 

後藤君のお仕事は、国内と国際の双方で、日本に関する最も重要なご著作です。それを頂けたこと、光栄に存じます。皆様もぜひお読みになってください!

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後藤君のご著作です。