一日お休みを頂きました

土曜日は駒場で石原先生のご著作『精神医療を哲学する』の合評会。色々と多くのことを学ぶ会でした。その疲れがあって、今日は一日ゆっくり休ませていただきました。

東静岡の近くに「柚木の郷」という都市型の温泉があり、温泉や露天風呂やサウナが人工的に作られており、楽しかったです。よかったのは、温泉とライブラリーが組み合わされていたこと。ライブラリーの本がとてもよかったです。文庫本では三島由紀夫村上春樹などのベストセラー、美しい旅行や料理の本、日文研井上章一先生の京都案内、医学では阪大の仲野徹先生の病理学案内、おもしろいイラストとキャラクター付きの漢方学入門など、温泉のあとの時間を本を読んでゆったりしました。つい次の仕事の対象である漢方学を熱心に読みましたけれども(笑)

面白いことに、前日の土曜日の合評会のときに、大きな病院が患者に提供する文化が貧しいという話が提供されました。日本の医療は技術とテクノロジーが非常に進んでいますが、一方患者が楽しむことができる文化が病院ではまだまだであるという印象を持っています。最大の理由は、文学がわかるスタッフがいないということなのでしょうね。しかし、日本の温泉は、面白いライブラリーがどんどん形成されるという力を持っていて、なぜ病院にこのようなライブラリーのコーナーがないのか考えようとしましたが、そんな難しい話より、ぼうっとする時間が長かったです。温泉のお金で言うと、一日850円ですから、まあまあ払えるという印象を持っています。

明日から色々な仕事に帰りますね。今日は一日休みました。

ブルガリアのプロヴティフという文化都市について

エコノミストエスプレッソ。待ちかねていた土曜日の文化欄(笑)

今日のハイライトはプロヴティフ Plovtiv というブルガリア第二の都市。これが文化都市で、ローマ帝国の劇場、ビザンティン帝国のモザイク、オットマン帝国のモスクと、古代から中世の文化が蓄積されているとのこと。ことにローマ帝国の野外劇場は、そこでオペラが上演されるなど、現在でも用いられているとのこと。 Wikipedia で見ると素晴らしい文化都市です。 

en.wikipedia.org

ワクチン信頼度・疾病バックラッシュ・台湾のインフルエンザワクチンなどなど

Larson, Heidi J. et al. "Addressing the Vaccine Confidence Gap." The Lancet, vol. 378, no. 9790, 2011, pp. 526-535, doi:10.1016/S0140-6736(11)60678-8.

ワクチンのプラスとマイナスの対立は激しさを増している。ワクチンを接種して特定の疾病への免疫を作りだすことによる個人と社会の利益と、ワクチン接種の副作用や障碍が残ったりする場合の不利益は、激しい論争になっている。また、不利益があるからということで、ワクチンを信頼する度合いが社会で減少していく。そうすると、そのワクチンを打たない人々が多いので疾病がバックラッシュをかけてくる。ワクチン信頼度のゆらぎが複雑な現象であり、どの疾病に関して、世界各国でどのように変わったかという主題は、大きな研究の主題となっている。この論文は、科学的な議論や経済的な議論ではなく、心理的、社会文化的、そして政治的なファクターが重要であるというスタンスをとっている。

Huang, W T et al. "Mass Psychogenic Illness in Nationwide in-School Vaccination for Pandemic Influenza a(H1n1) 2009, Taiwan, November 2009–January 2010." vol. 15, no. 21, 2010, p. 19575, doi:doi:https://doi.org/10.2807/ese.15.21.19575-en.

台湾での心因性のワクチンに対するパニックについて。パンデミックのインフルエンザ(H1N1) に対して、2009年の11月16日に小中学校の生徒にワクチンを打ち始めた。11月23日から12月10日まで、ワクチンを打ったあとに心因性の疾病が現れた学校が10件ほどあり、300人ほどの生徒が疾病、病院に行った生徒は1人である。Massive Psychological Illness after Vaccination は MPIVと略す。

Jacobsen, Peter and Niels Erik Ebbehøj. "Outbreak of Mysterious Illness among Hospital Staff: Poisoning or Iatrogenic Reinforced Mass Psychogenic Illness?" Journal of Emergency Medicine, vol. 50, no. 2, 2016, pp. e47-e52, doi:10.1016/j.jemermed.2015.10.011.

これはデンマークの病院で仕事をしている者たちに MPI が起きたのであろうという話。病院が Mass Psychogenic Illness なのか。病院は、そこで複数の殺人が行われる非常におかしなことになっている。MPIも起きるのか。

Taddio, Anna et al. "Survey of the Prevalence of Immunization Non-Compliance Due to Needle Fears in Children and Adults." Vaccine, vol. 30, no. 32, 2012, pp. 4807-4812, doi:https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2012.05.011.

注射針の痛みへの恐怖のために指示に従わない子供と成人がいること。

McNeil, Michael M. et al. "A Cluster of Nonspecific Adverse Events in a Military Reserve Unit Following Pandemic Influenza a (H1n1) 2009 Vaccination—Possible Stimulated Reporting?" Vaccine, vol. 30, no. 14, 2012, pp. 2421-2426, doi:https://doi.org/10.1016/j.vaccine.2012.01.072.

これは面白い。アメリカの予備軍でのエピソード。パンデミック・インフルエンザのワクチンを打ち、そのせいでギラン・バレの症状が出た予備兵が病院に運ばれる。その翌日、同じ部隊の13人の予備兵が同じような症状があるといった。

Kharabsheh, S. et al. "Mass Psychogenic Illness Following Tetanus-Diphtheria Toxoid Vaccination in Jordan." Bulletin of the World Health Organization, vol. 79, no. 8, 2001, pp. 764-770, PubMed, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11545334
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/PMC2566491/.

これはヨルダンの政治・外交をヒステリーの背景に持っている。1998年にジフテリア接種をうけて200人ほどが集団で不安を起こした。西海岸では1983年にはガス中毒ではないかという不安が、イランでは1992年に26人の女性がジフテリアのあとに不安が起きている。

ウォンバット!

publicdomainreview.org

 

今朝の19世紀後半のウォンバットのイラスト集が面白い。もともとはオーストラリアの有袋類で、ロンドン動物園などでも展示され、イングランドのラファエル前派たちが「やられて」しまったとのこと。しばらく前に Top という名前のウォンバットについての記事も LRB で読んだ。流行とはこういうものなのか。

 

akihitosuzuki.hatenadiary.jp

 

 

 

迷信と幻覚の経験と「虫の知らせ」

迷信調査協議会. 生活慣習と迷信. 復刻版 edition, vol. 3, 洞史社工学図書(発売), 1980. 日本の俗信 / 迷信調査協議会編.
 
第4章 今野圓輔「霊魂信仰による生活慣習の分布」102-137
第5章 赤松金芳「民間療法と迷信」138-162
 
面白いのが「虫のしらせ」である。この時期の日本人たちは、霊魂や幽霊の存在自体はほとんどが信じていないのに、「虫の知らせがあるか」はおどろくべき高い支持率である。一番多いのが「あるかもしれない」の46%だが、否定が18%しかいないのに対して、肯定は27%と否定より多い。そして、年齢についても不思議なパターンである。一番多いのは30代、次が29歳以下、そして中年、壮年、老年の順で、逆に肯定が減少していく。男女比でいうと、圧倒的に女性に肯定派が多い。80パーセントまでが肯定している。学歴を見ると、これはさすがに大学高専に否定派が多い。「虫の知らせ」と虫を利用した病気の話は少し違うだろうが、粘りがあることは本当である。

中国に対する日本軍の細菌戦と同姓村

上田, 信. ペストと村: 七三一部隊の細菌戦と被害者のトラウマ. vol. 1, 風響社, 2009. 風響社あじあ選書.

上田先生のペスト論。こちらは18世紀から19世紀の雲南省で起きて、第三回のパンデミックを起こしたペストではなくて、731部隊が中国の村に細菌を放った細菌戦の戦争犯罪の本である。この細菌戦は色々な意味で明白であり、日本政府も謝罪するべきなのに、そのあたりをうやむやにしてしまうことが、なぜか分からない習慣となっている。本当に申し訳ないと個人として思う。

ポイントは別のところにある。144ページからメモ。崇山村という400名ほどが死亡した村が「王」という姓の同姓村であったことに着目した点である。普通は父系親族の団結が強く、その村の青少年に科挙試験を受ける便宜を与えたり、他の村と対立したときには力を合わせて村の内部は団結する。しかし、戦火や飢饉に対しては、村の内部の限られた資源の奪い合いがおいて、同族内部の緊張が高まる。そのようなときには、姻戚関係を頼って、族人を文さんすることで乗り越えることができる。疎開時に深められた姻戚との関係は、再構築した同族集団に活力を与える。

ここで問題なのが、感染症がポイントであるという特殊な場合である。姻戚関係を利用する疎開が、伝染病を拡散することになる。そのため、周囲の村々と友好関係を保つことが難しい。そのため崇山村では、細菌戦の被害を受けた後、地域社会の他の村落から孤立する傾向があった。

<統合失調症患者>の20世紀の社会史

historypsychiatry.com

 

h-madness の広報。一度読んでみたい エルヴェ・ギユマン (Hervé Guillemain)先生という方がいて、各地で重要な講演をしている。1月22日にはルーヴァンの哲学研究所で統合失調症という患者の20世紀の社会史という講演をされるとのこと。
 
20世紀に現れた社会にうまく適合できなかった人々として統合失調症の患者を捉える。使用人、あるいは過酷な状況での労働者、移民、新しい可能性に人生の勝負を掛けるが失敗する若者、学校、軍隊、労働などを重視する新しいフランス型の社会に合わせることに失敗する人たちであるという。
 
In the Health Humanities Lecture Series organised at the KU Leuven (Belgium) Hervé Guillemain from Le Mans University will give a lecture titled ‘Schizophrenics in the twentieth century. Writing the social history of mental illness’. The lecture takes place on 22 Jan 2019 at the Kardinaal Mercierzaal of the Institute of Philosophy (Leuven) and is open to everyone, but registration is necessary (via gert.meyers@kuleuven.be).
 
Abstract
“Why and how can a new mental illness arise, evolve and die? The historian Hervé Guillemain answers these very questions, delving into thousands of patient files in order to bring the voices of the ‘zero patients’ of schizophrenia out from the archives. To write from the point of view of clinicians would bring nothing new indeed. It is from the point of view of the schizophrenics that we need to write. They were the servants living and working in harsh conditions, as well as the migrants who were facing the crisis of the 1930’s. They were also young adults hoping for a new kind of empowerment. All of them were shaped under the aegis of science and medical practice, a new population subset recognizable through their gestures, their resistance to therapy, as well as their failure to adapt to the new selective model of French society, whether it was in schools, the army or at work.  Schizophrenia is now considered as a fragile, inoperative and stigmatizing category. The people who would like to rehabilitate these patients nowadays need to take a look back into the past in order to understand the present state of schizophrenia as well as the diffusion of this illness and its historical repercussions.”