総研大ワークショップ

総研大で開かれたワークショップ。日本と外国の研究者の協力で、日本の科学者像の成立を主題にする、とても面白い学会でした。
 
Michael Gordon の視点を使ってエスペラント語を用いようとした日本の科学者の話題、桜井譲二が「理学」という言葉を考えたこと、津田ウメと丹下ウメという女性科学者の
比較、市民科学者の話題、失敗した植物学者の話、物理学者の話、宮沢賢治の作品など、とても面白い話題がたくさんありました。
 
EASTS の編集長がいらして、ノートと絵葉書を頂戴しました。絵葉書はこれまでの表紙のデザイン。緑色のものは、Psy-Science の国際比較を行った素晴らしい号です。高林陽展君、中村江里さん、佐々木香織さん、奥村大介君が貢献した号は、以下の号をご覧ください。
 
 

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EASTSのノートと絵葉書。元気があると同時に、さまざまな意味で賢いセッティングですね。

 

キジとツバメとイソヒヨドリ

金曜日と土曜日は面白い仕事が続いたが、さすがに疲れて、夜は泥のように眠った。
 
今朝は家で朝ご飯を食べて、庭でコーヒーを飲みながら、ネコと過ごした。春の陽気が空間に満ちていくようないい雰囲気で、田んぼの景色を見ていた。キジは、数日前にメスも見つけた。オスから数十メートルくらい離れた畑で地面の何かをついばんでいた。数週間前から囀りをしているオスと繁殖することができたのだろうか。それとも、オスもメスも複数の繁殖をするらしく、混沌とした状態が作られたのだろうか。他にも、家の近くでは今年初めて見るツバメの鳴き声や、イソヒヨドリのオスが屋根でした素晴らしい囀りなど、とても楽しい形でゆっくりした。 

フランスのランスのルーブル博物館のホメロス展

https://www.louvrelens.fr/en/exhibition/homer/?tab=exposition

 

エコノミスト・エクスプレスの土曜日の記事。今日はフランスのランスにランス・ルーブル美術館があり、そこがホメロスに関する展示をしているとのこと。ホメロスの作品にインスピレーションを求めた数々の伝統と作品があるとのこと。1962年のパトロクロスの死を悼むアキレウスという作品がとても面白い。今日の仕事が終わったらもう一度チェックするためのメモ。

ヨーロッパの文化の通史?

2019年度には歴史の一般教養は History of the Body 1 と History of the Body 2 になります。身体の歴史というのは何を扱うのか、やや難しい主題ですが、人々が身体の様々な機能を政治・経済・社会・文化の中に組み込む歴史を語って、それぞれの時代と地域について身体がどのようなものなのかを語ることが、研究の蓄積で可能になりました。これについては各論があり、それらをまとめた A Cultural History of the Human Body が、ヨーロッパを軸とした「身体の歴史の通史」としてもう出ています。

この部分はそれほど困らないのですが、ふと気がついたのが、ヨーロッパの新しい文化の歴史の通史として何を使えばいいかということです。基本は Short Oxford History of Europe を使っていますし(後期中世がまだ出ていないようですが 笑)、Cambridge の科学史通史も使うことになると思います。ただ、身体の歴史がうまく結びつくことができる背景って、どのシリーズなんだろう。皆さんはどれをお使いですか? 

もう一つの特徴が、History of the Body 1 と History of the Body 2 が、どちらもギリシアから20世紀までを見ることになります。それぞれのセメスターが独立していると考えて、ギリシアから現代までを2回話すということになります。これも私としては初めて行う、セメスターが独立するという発想です。 

鉛の被曝の長期的な影響

 https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2729713?guestAccessKey=e2812f56-1fbe-46dd-9183-0bf8e5f49a67&utm_source=silverchair&utm_medium=email&utm_campaign=article_alert-jama&utm_content=olf&utm_term=032719 

 

 
アメリカの医学雑誌の一つに Journal of American Medical Association がある。アメリカ医学学会の機関誌であり、標準的・代表的なものなのだろう。19世紀の末に刊行を始めたので、この雑誌に発表された論文を目にしたことがある。
 
JAMAが掲載された論文を毎日通知してくれる。今日は現実を突きつける大きな通知で、子供時代に受けた鉛の被曝が大人になるまでの影響の問題である。場所はニュージーランドダニーデン (Dunedin) で、そこで1970年代に強い鉛の被曝を受けた500人以上に関して、観察を継続した長期的な研究である。特に、大人になった状態での精神医学的な影響である。ダニーデンは、当時は世界で最も鉛への被曝が強く、血中鉛の影響で大きな精神医学上な被害が出た。その状態は脱出したが、40年近くたった大人になった段階でも、精神・性格・気質などに影響を与えている子供が多い。英語がよく分からない部分もあるが、硬直的に日本語に訳すと、自意識と感じの良さは低く、神経質的な部分はより高いという。原文の英語を使うと、lower consciousneess and agreeableness, higher neuroticism である。
 
昨日はたまたま放射線の影響についての書物を読んだ。高田先生の放射能被曝の本である。彼が込めている、明るさと勇気を強調したメッセージ、つまり広島や長崎が核兵器の対象となって巨大な被害を受け、そこから人々が復興してきたというメッセージは、とてもいいなあと思った。人々の強さと強靭さを強調する論旨である。一方、今日のメールで送られてきた記事は、子供の時に鉛の影響を受けると、大人になってもその影響は人格に残っているという悲観的な側面である。うううむ。
 
しかし、私は数年前にダニーデンに仕事で行ったことがあり、そこではもちろん鉛の影響などは全く感じられなかった。移民の関係でスコットランドと強い結びつきがあり、英語がスコットランドのアクセントを強く持つ人々の明るさが感じられた。「ダニーデン」という市の名前自体が、ゲール語で「エディンバラ」にあたるものだという。娘のためにラグビーオールブラックスのマフラーも買った(笑)弱さを知った時には、こうやって強さを改めて実感しておく必要があるのだろう。
 

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JAMA の挿絵。少し暗さを感じますが、ここから出発したことも理解しなければならないのですね。
 
 

湿地の自然

https://www.wbsj.org/join/join-and-changes/yacho/

 

 

www.wbsj.org

 

日本野鳥の会。今回は『野鳥』も Toriino もどちらも面白い。『野鳥』では「都市の湿地」と題された記事がとても面白い。高田雅之先生という方で、北大の農学部で学んで、現在は法政大学で教えていらっしゃるとのこと。医学史家としては、都市の湿地というとマラリアを中心とした感染症しか思いつかない。湿地の近くは感染症罹患率が非常に高いからである。しかし、そのかなりの部分をコントロールできるようになった現在は、湿地性を都市に取り戻す試みをしてもいいだろう。そもそも、日本でも外国でも、大都市は湿地にできたという一つのパターンを持っている。江戸、大阪、名古屋、新潟などがそうだし、ヴェニスアムステルダム、パリ、サンクトペテルブルクがそうである。静岡だと富士宮の富士山ゾーンには多くの湿地池があり、静岡市には麻機(あさいそ)に湿地池がある。高田先生には『日本の湿地』という著作がおありとのこと。読んでみようかな。
 
Toriino は、どの文章もよくて、特に藤原新也先生が「パリの個人、東京の量産」という素晴らしい文章を書いている。写真も素晴らしい。これはもちろん量産されるファッションモデルの話だけれども、学者においてもそのまま当てはまる。私も量産に入っているような気がする。
 
日本野鳥の会の雑誌『野鳥』の表紙が、堂々たるキジの写真なのが、何か嬉しかった。

かびくさいメアリー

Typhoid Mary (腸チフスのメアリー)は、20世紀初頭のニューヨークで数十年も隔離された女性、Mary Mallon である。アイルランドからの移民で、調理をしていた。中産階級・上流階級の家で採用されるが、腸チフスの保菌者になってしまい、コンスタントに腸チフスを排出して、家族の死者を出してしまう。医者が発見し、二回にわたって NY の公衆衛生の隔離収容所に閉じ込められ、最後はそこで死亡する。 色々な形で有名になり、Typhoid Mary と呼ばれていた。
 
OUPのブログの記事で、Moldy Mary (かびくさいメアリー)と呼ばれている現象が1940年代にあることが分かった。これは、ペニシリンの世界的な開発において、アメリカの Mary Hunt という女性の研究者がいたこと。アメリカの男性の科学者たちが1940年代のペニシリン開発の重要な場で、重要な素材が必要だったこと、それに関係あるものを一生懸命さがしたこと、研究室があった町の八百屋でもその素材をさがして、Moldy Mary と呼ばれたこと。これは実験で用いるゼリーというような意味の mold と関連して、「かびくさい」という意味の moldy が出ているからである。
 
 

jb.asm.org

 

blog.oup.com

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かびくさいメアリーとマスクメロン。メロンはNRRL を作る重要な素材だったそうです。