一昨日に続いて新着雑誌から。ウィア・ミッチェルに治療された神経衰弱の女流文学者(literary womenって、何て訳すんだろう?) についての論文を読む。
もしウィア・ミッチェルS. Weir Mitchellがシャーロット・パーキンス・ギルマンの神経病を治療していなかったら、医学史の研究者以外で彼の名前を知る人はほとんどいなかっただろう。ギルマンが、自らの神経病とミッチェルによるその治療の実体験をもとに書いた短編『黄色の壁紙』は、その恐ろしい妄想の迫真性もあって、V. ウルフの事例と並んで、フェミニストによる男性医学権力批判の古典中の古典となった。私も数年前に授業で教えたことがあったが、話のタネとしては絶好だし、読ませたらいい教材になるだろう。元テキストと医学テキストとを併せて読むことができる、Dale M. Bauer 編集のエディションもある。
この論文は、ミッチェルが治療したのはギルマンだけでないことに着目し、アミリア・メイソンとセアラ・ウィスターという二人のインテリ女性の神経衰弱をミッチェルが治療した事例を、ミッチェルの書簡から発掘して分析したものである。いわゆるバックラッシュ系の論文ではないから、ミッチェルと男性医師の名誉回復が直接の目標ではない。ミッチェルが男性と女性には別の領域がありアメリカの近代化を警戒していた保守的な思想を神経衰弱の治療に翻訳した医者であることは疑いない。しかし、ギルマンの症例だけを通じて、ミッチェルと神経衰弱の治療を理解するよりも、はるかにニュアンスに富み、深みがでた議論になっている。メイソンとウィスターが進歩派・保守派とタイプが違うのも面白い。
文献は Shuster, David G., “Personalizing Illness and Modernity: S. Weir Mitchell, Literary Women, and Neurasthenia, 1870-1914”, Bulletin of the History of Medicine, 79(2005), 695-722.
ギルマンの『黄色の壁紙』を検索してみたら、日本語では意外にヒットが少ないが、ギルマンのテキストを全訳されて載せているサイトもあった。許可をいただいてリンクを貼ろう(これを、ブログ用語で「トラバ」というのでしょうか?)と思ったけれども、連絡先が分からないので、そのままに・・・
画像は、Viragoのエディションの表紙。