坂東眞砂子『死国』

 旅行中に読んだ本の感想がさらに続く。 今回は、いま子猫のバイオエシックスをめぐって話題を提供している坂東眞砂子の『死国』(東京:角川文庫、H8)。

 なぜこの本を買ったのかよく憶えていない。横溝作品を何冊か買ったときに、アマゾンの「この本を買った人は・・」という販促に釣られて買ったのだろうか・・・ トロントの空港で飛行機を待つ間に読んだ。昨日のエントリーから続けて読むと、まるで学会出張ではなくて推理小説・ホラー小説を読みに行ったように思われるかもしれないけれど。

 というわけで医学史とは何の関係もないけれど、実はかなり面白かった。神話とか民話とかお遍路さんのことなどを良く調べて書かれたこともあるのだろうけど、話の舞台に広がりがあるところが特に面白かった。特定の個人を恨んでいるとか、ある家に憑いている邪霊だとか、そういう小さな世界の話ではない。四国という島全体の霊的世界の秩序、古代以来の死者と生者の秩序をめぐる宇宙論的な闘争が、主人公たちを中心にして繰り広げられる。主人公たちの個人的な思い出が、いつの間にか叙事詩的な規模のストーリー(『古事記』の読み解きが話の鍵を握っている)になっていく時のこぞばゆい感じが、私は好きだ。現代のホラー小説というのは、こんなに壮大なものが多いのかしら?