老いの社会史

「老い」の社会経済史の論文集に目を通す。文献はJohnson, Paul and Pat Thane eds., Old Age from Antiquity to Post-Modernity (London: Routledge, 1998).

 しばらく前にThomas Cole によるアメリカの老いの文化史を取り上げて名著だと書いた。今回の論文集は社会経済史の視点から見た老いの歴史だから、Cole のような「文化」に注目する視点に対して、「社会」「制度」に着目した論文が多い。ポール・ジョンソンによるイントロダクションは、さすが第一人者による明晰で読み応えがあるもので、老いの歴史について我々が陥りやすい思い込みを鋭く指摘し、ある現象の複雑性を指摘し、社会・制度の視点と文化の視点をすり合わせる可能性を探っている。ジョンソンが最も苦心しているのが、文化や態度に注目する方法と、制度や経済に注目する方法を調整することである。この論文の書き手たちの多くは、二つの方法が存在していることを意識していて、それらを組み合わせて使う方法を苦心して模索しているところが、読んでいて嬉しかった。