必要があって「感覚の歴史」を読む。文献は Robert Juette, A History of the Senses: From Antiquity to Cyberspace (Oxford: Polity, 2005)
「感覚の歴史」と称して、哲学者の感覚についての理論の歴史、宗教の中における感覚の位置づけ(総じて低い)、感覚についての生理学的研究などについての章と、チコリコーヒーが苦かったとか、その類のシュヴェルブシュ風の文化史風のエピソードがそれぞれの五感ごとに雑然と並んでいる。エピソードも表層的だし分析も浅い。序論と結論にある現代社会の感覚についての情報は、主にウェッブからかき集められたもの。かなり省エネで書かれた本である。
エピソードの中には面白いものもある。例えば Feeling Therapy という1950年代のLAではじめられたセラピーがあるそうで、これは「患者の身体の構造を変えるだけではなく、感情の流れを受け入れられるように身体を再方向づけし、より弾力的な人生を送ることができるようにする」ことを目標にしているそうだ。そのセラピストと患者の会話の抜粋が本書にある。
セラピスト:考えちゃだめ。手で感じてみて。何を感じる?
患者:(泣きながら)柔らかくて、暖かい肌・・・ すごくいい・・・(むせびなく)
セラピスト:いっちゃだめ。
患者:ううん・・・いきそう。
セラピスト:だめ。そのままでいて。今感じていることを口にしてみて。それだけでいいから。
註を見ると、Die neuen Koerpertheapien (1977)からの引用だそうだけど、「まるで、何かみたいじゃないか」と思ったのは私だけではない・・・・ って、同じ台詞を、しばらく前に書いた。低人さんがまた迷い込んでくれることを期待して、タイトルをつけてみました(笑)