教科書の中の医学史

 今日はちょっと無駄話を。

 一般の歴史教科書に目を通して、英語圏の医学史の殷賑を慶賀する(笑)。文献は、Wiesner-Hanks, Merry E., Early Modern Europe, 1450-1789, Cambridge History of Europe Series (Cambridge: Cambridge University Press, 2006).

 中世から現代までのヨーロッパの歴史を4冊でカバーする教科書のシリーズがケンブリッジから刊行されはじめた。あめりさんなどは良くご存知だと思うけれども、良い教科書が必要なのは学生だけではない。特に教え始めたばかりの教師としては、信頼できる教科書があると本当に助かる。10年前、私が教え始めたばかりの頃、医学史の優れた教科書が、日本語は言うまでもなく英語でも存在しなかったので、だいぶ苦労した。その後、劇的に状況が改善されて、最近では、英語の医学史の教科書はどれを使うか迷うくらいである。日本語でも<遠くない将来に>医学史の教科書が書かれるだろう。

 医学史の教科書で苦労しなくなったので、いわゆる「歴史的背景」についてコンパクトで信頼できる教科書が欲しくなってきた。例えば解剖学の背景としてのルネッサンスの人文主義について説明するときに、人文主義についてのアップ・トゥ・デイトな教科書が一冊あると安心して授業ができる。それで、たまたまケンブリッジ大学の出版局が新しいヨーロッパ史の教科書シリーズを出していると聞いたので、喜んで注文した。

 とてもインテリジェントな構成になっていて、1) 個人と社会 2) 政治と権力 3) 文化と知的生活 4) 宗教 5) 経済と技術 6) 世界の中のヨーロッパ の6つのテーマを掲げ、1450-1789年を、1650年くらいを境に二つの時期にわけている。つまり全体の2×6で12の節が立っていることになる。著者は大きなテーマの教科書を書きなれているとのことだけれども、なるほど、さすがだなと思う。

 やはり、まず医学史についての記述を読んでしまう。本来そのつもりで買ったわけではないのだけれども・・・(笑)この教科書の記述は、まず5ページにわたるガレノスの体液論の説明で始まっている。 「ヨーロッパ史」の標準的な教科書がガレニズムで始まっているか~と興奮した(笑)。 それ以外にも医学史の記述が非常に増えて、非常に喜んでいる。