食物辞典

 今日は無駄話を。

 昨日のカンポレージの本を読みながら、お気に入りのレファレンスを引いた。そのレファレンスは、Alan Davidson, The Penguin Companion to Food (Harmondsworth: Penguin, 2002). もとはと言えばOxford Companion to Foodとして出版されたものが、あまりに傑作だったのでペンギンが版権を買ったらしい。世界中の食べ物について2650の項目があって、全部で50人の専門家が執筆しているが、実は殆どをデイヴィッドソンが一人で書いている。  

 世界中の食べ物の話が、正確・的確に書かれていて読んで楽しく勉強になる。例えば Natto のエントリー

Natto: a Japanese fermented product made of soya beans, unusual in that it is fermented by bacteria (Bacillus subtilis), not by the moulds used for Indonesian tempe and other fermented soya beans products.
The bacteria give the beans a whitish coating and a flavour and texture which not all Japanese appreciate and which most other people find disconcerting. The falvour is strong, musty, and faintly ammoniac, and the bactria develop on the beans a sticky slime which form strings; the longer these are, the better the natto, accodring to those who like the product.

納豆:大豆を発酵させて作られる日本の食べ物。インドネシアのテンペなどのようにカビによって発酵するのではなく、バクテリアによるところに特徴がある。

バクテリアのせいで、豆の表面には白っぽいコーティングが生じて、全ての日本人が好きではないし、他の民族はほとんど全て当惑するような香りとテクスチャーが作られる。香りは強烈で、カビの匂いがし、かすかにアンモニアの匂いもする。バクテリアのせいで、豆の表面にはねばねばするスライム状の糸が生じて、納豆が好きな人に言わせると、この糸が長ければ長いほど良い納豆だとのこと。

以下数パラグラフ略

色々な用途があるけれども、たまには同業者向けに書くと(笑)、食べ物の話を英語でできるようになりたい人には必需品。 かなり知的な日本人でも、外国人と食事をしながら食べ物の話をするときの語彙は、good と not so good の二つしかないのが普通。 それを英語のせいにして、あるアメリカに長く住んでいた知人は、「アメリカ人は<辛い>という言葉が hot の一つしかないから、何でも hot という」という暴言を吐いたことがあった(笑) まさか、先生、そんなわけないでしょう~ もちろん「辛い」を現わす英語に色々あって使い分ける。 わさびは pungent 、さんしょうは tangy。