健康格差が生じた経緯

 必要があって、社会階級による死亡率格差についての古典的な論文を読む。文献は、Antonovsky, Aaron, “Social Class, Life Expectancy and Overall Mortality”, Millbank Memorial Fund Quarterly, 45(1967), 31-73.

 社会疫学の中で健康格差の話はよく聞くが、「どのような経緯を経て現代の健康格差に至ったのか」という問題が議論されているのを聞いたことがない。たぶん私の勉強不足だろうだとは思うけれども。 でも、現在の疫学者が行っている研究を見ると、これだけ緻密なデータを入手することを歴史に期待しても無理だろうな、と正直言って思う。 

 この論文は、社会格差による死亡率や平均寿命の歴史的な変化のパターンを論じたもの。平均寿命がいちじるしく短いレジームと、この論文が書かれた当時の基準で言って長いレジームでは、社会格差による死亡率の差は小さくなるが、平均寿命が伸長しているがまだそれほど長くはないレジームにおいて、その差は大きくなる、というのが基本。 特に、感染症の制圧が進んだ時期には健康格差は小さくなり、社会階層の最上位グループと最下位グループの死亡率の比は、1:2くらいだったのが1:1.3ほどに縮まった。

 重要なのは、あるレジームの技術水準や知識水準などに応じて、「防ぐことができる死亡」が集中するパターンが変わってくるということである。このアイデアは、いわれてみれば当たり前だが、私にとっては盲点だった。