澁澤龍彦『私のプリニウス』

プリニウスを読んだついでに「文庫のS」をごそごそと探して澁澤のプリニウス紹介を少し読んでみた。もともとは雑誌の連載で、プリニウスの博物誌のあちこちから面白い箇所を抜き書きして、それを素材にして談論風発的に思いつくままを書いたエッセイ。原稿のかなりの部分を抜粋した部分の翻訳が占めているという、不届きといえば不届きな仕事なのだけれども、抜粋してくる箇所を選ぶセンスと、当たり前のことだけれども、翻訳が素晴らしいので、とても楽しく読める。大学の科学史の授業で教科書指定されるようなタイプの本でないだろうけど、とても優れたプリニウスと「自然史」という学問の入門書だと思う。あと、私は澁澤をあまり読んでいるほうではないので、これは想像で書くのだけれども、愛読している一冊の本に関して、思いついたことをそのままに書き並べるというスタイルは、もしかしたら澁澤の仕事の中でも珍しいのではないだろうか?

瀉血と浣腸に関する、澁澤の清潔感があふれる訳文を抜書きしておきます。内容が清潔感あふれるかどうかは、意見が分かれると思うけど(笑)

「河馬は医学のある分野においては、偉大な先達と目されている。すなわち食物をたくさん食ってあまりふとりすぎると、水から出てきて岸辺をあるき、どこかに刈ったばかりの葦の茂みはないかと探しまわる。そして鋭い切り口の葦を見つけると、そこにからだを押し付けて、みずから足の血管を切る。こうして瀉血をして、ふとりすぎの病気になることから免れると、傷口に泥を塗って血をとめるのだ。
 同じような例はエジプトに棲むイビスという鳥においても認められる。すなわちイビスは健康のために不消化物を排出する必要に迫られると、長い彎曲したくちばしを利用して、みずから腸管の内部を洗浄するのだ。こうした器用なまねをするのはイビスだけではない。多くの動物が人間にも役に立つ幾多の発見をしているのである。たとえば鹿は矢で射られると、ハナハッカという植物を食って、体内の矢を放出してしまうので、この植物は人間にも役に立っている。」