『20世紀精神病理学史』

未読山の中から、渡辺哲夫『20世紀精神病理学史』と『死と狂気』を読む。どちらもちくま文庫から。

『20世紀精神病理学史』のほうは、予想はついていたけれども、やはり「歴史」ではなかった。著者自身が、「本書の意図は、20世紀精神病理学を出来事の連続として、すなわち精神病理学者の知的労働史とその成果の行列としてみることではない。もしもそうであるなら、事は一枚の年表で足りる。」と宣言しているのだから、仕方がない。 精神病理学者の仕事の歴史を書くことが、本当に一枚の年表で足りるかどうかについては、私はそうは思わないが、著者がそういう問題には興味がないという意味にとるべきだろう。

昨日に引き続いて、小うるさいことを書いて申し訳ないけれども、これは学者として書いておいたほうがいい。ユングの発言を引用して彼のイデオロギー的な側面を批判的に論じている箇所で、その出典がわからないままご自分のメモから引用して議論をしているけれども、こういう微妙な問題についての重要な引用のときには、いったいどの著作・手紙などから引用しているのか、読者に明らかにしたほうがいい。

『死と狂気』のほうは、症例の分析を主として、美しく豊かに形而上学的で詩的で比喩的に洞察を展開したもので、これは、歴史の話ではないから安心して楽しく読んだ。