インド神話

未読山の中から、インド神話の入門書を読む。文献は、上村勝彦『インド神話―マハーバーラタの神々』(東京:ちくま学芸文庫、2003)

1981年に初版が出た書物で、当時はヒッピーと比較神話学のようなものの全盛期で、きっといい加減なインド神話の紹介がたくさんあって、それに業を煮やした著者の仕事なのだろうか。この書物の根底には、「原典に忠実に」をモットーにした、アカデミックに厳密な作業があるという。きっと優れた学者の素晴らしい仕事なのだろうということしか私には分からない。

形式としては、原典から要約された神話のエピソードの紹介があって、それに短い解説が付されていて、世界の創造から順番に並べられている。どれも興味深い神話ばかりで、インドの複雑な歴史の中で高度な想像力で造られた、奥深いものだけれども、医術と関係がある「チャヴァナの回春」と題されたものを書き留めておく。

チャヴァナという男が苦行をして、ヨーガの姿勢をとって静止しているうちに、全身ツタに覆われ、蟻だらけになって蟻塚と化してしまった。しかし彼は土の塊になって蟻塚に覆われたまま苦行をしていた。その苦行者がある事件のあとでスカニヤーという名の女と結婚したが、なにせ蟻塚に覆われた老いた男だから、スカニヤーは愛の喜びを得ることができなかった。そこに、シュヴィン双神という二人の医神が、チャヴァナを輝くような若者にして、自分たちも寸分たがわぬ美しい若者になり、スカニヤーに三人の男から一人を選んで結婚するように言う。スカニヤーはためらうことなく正しいチャヴァナを選ぶ。チャヴァナは感謝して、それまで身分が低く、神々には卑しめられていた医神が天上でソーマを飲むことができるようにしたというもの。