薬理学入門(50年前)

今から50年前の薬学入門の教科書を読む。文献は、Lewis, J.J., An Introduction to Pharmacology (Edinburgh: E. & S. Livingstone, 1960).

医学史研究者としての基礎体力をつけるためと称して、古い医学書で、あまり関係ない分野の本を時々読んでみることにしている。基礎体力がついているかどうかは分からない。序文とイントロダクションを読んで、あとはぱらぱらと眺めた。

科学的な医学の時代には、生理学から派生した多くの学問があり、薬理学 (pharmacology) もその一つだという。薬理学の技法も薬の名前も、生理学に負っているという。一方で、薬理学のほうも生理学に貢献していて、薬の作用の研究から、生理学の新しい知見が開かれることも多々あるという。

これは、薬物学(materia medica)でもないし、治療学 (therapeutics) の教科書でもない。だから、病気に対してどの薬を投与すればいいかということは書いていない。この書物の目標は、薬がはたらく場所、様式、タイプを記述して、化学構造と作用の関係に注意を払うという。しかし、長く使われてきた薬であっても、薬の作用の様態に関して知られていることは少ないので、この種の教科書は、薬のカタログになりがちである。それゆえ、薬理学は論理的な科学的な基盤に欠けていると批判され、それゆえに事実の羅列とそれを暗記する科目になってしまう危険を持っている。薬理学者は自分の学問に情熱があるから、それを覚えられるけれども、学生にとっては退屈で興味を持てない科目になりがちである。だから、この書物では、学生の興味をひく仕方で提示できるマテリアルに集中し、細部の多くは、もっと上級の教科書にゆずったという。

薬学と薬理学と治療法の発展と変化にメカニズムについて、何かを教えてくれそうな記述である。実際に使われ始めている薬を「説明する」ことが難しくて、薬理学が現実の後追いになっていること、「説明できる」現象が規範的なものなっていることなどが読み取れはしないか。このパターンは、これからどうなったんだろう。 薬理学なる学問がなかった(本当?)時代には、どうだったのか。色々と考えることがあって、だからどうしたというわけではないけれども、少しだけ基礎体力とやらがついた気になった(笑)。