出張の飛行機の中で、映画『クヒオ大佐』を観る。
自分はアメリカ空軍のパイロットであると名乗って、日本人の女性を次々と結婚詐欺にはめた実在の人物がモデルらしい。堺雅人が大佐役。だまされる女性が三人いて、そのうちの主たる役は松雪泰子さんという女優さんが演じている。松雪泰子という文字列を名前として持っている女優さんがいることは知っていたけれども、小さなお弁当・給食の会社をなんとかやりくりしている貧相な雰囲気があんなによく似合う人だったのか。
堺雅人の存在感におんぶにだっこしているという印象を持った。たしかに、いくつかのブリリアントな場面はあった。堺の詐欺が松雪泰子にばれて、松雪が心中を持ちかけ、観念した堺が少年時代の記憶を語るという場面があって、堺が語る裕福な家庭の夢多き少年という物語とは正反対の、貧困と家庭内暴力ですさんだ家庭の映像が流れる場面は、優れた映像詩になっていた。また、堺が詐欺で日本の警察に逮捕される土壇場で、アメリカの空軍部隊が大佐を救出にくる映像を流すのは、小気味がいい悪乗りがあった。
でも、クヒオ大佐が、三人の女性に対してすべて同じキャラクターで詐欺にかけ、しかもそのキャラクター描写が、すべて堺のモノローグ風の長い台詞で表現されているから、映画の組み立て方として、おそろしく単調になる。それが狙いで、それが味なんだろうけど。