必要があって、江戸時代の養生論を読む。文献は、杉田玄白『養生七不可』。大正期に三宅秀・大澤謙二が編集した『日本衛生文庫』全六巻の第一巻に収録されている。
江戸期の医者は儒学者の身振りをすることが多かった。そのため、殿様への忠言という枠組みに乗せて、社会における医学と病気について語るという姿勢になり、一方で消費生活を戒めるという主題になった。それぞれから、ひとつずつ議論をまとめておく。
今の世において、他の技芸は進み、万事が昔より優れているが、疾病を治すことについては、昏迷で愚かな人ばかりで、医師の良拙を知らず、せっかくたまたま良い医者にかかっても、薬が効かないとすぐにやめてしまい、祈祷をしたりしてうろたえて騒ぎ、巫女に頼んだり方角の吉凶を占ったりして、医者をすぐに変えてしまう。とくに、富貴の家のものは、いつも家来に囲まれて万時御意ごもっともで、わが身の非を知らない。医者を大勢まねいて、その中で阿諛追従がうまいものの言うことを聞く。
山の中、海辺、市中と比べると、山の中にすむものが最も長命である。山の中は寒く、気は体内にたまって保たれて外に漏れない。人との交わりは少なく、不自由だから欲も少なく、魚も肉もめったに食べない。市中に住むものは、賑やかだから人との交わりが多く、気が減りやすい。海辺は魚・肉を食べるので、病気が多く短命なものがおおい。市中でも海辺でも、欲を少なく、肉食を減らせば、害はないのである。